マンガ/伊藤理佐 文/FRaUweb

こんまりメソッドで重要な「トキメキ」

「こんまりメソッド」で知られる片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんが、「TIME」誌で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたのは2015年のこと。2019年には『KonMari~人生がときめく片づけの魔法~(原題:Tidying Up with Marie Kondo)』というドキュメンタリー番組がNetflixで始まり、アメリカの人気トークショーのいくつかでもその技術を披露して喝采を浴びていた。家の中の残すものすべてに愛を持って接し、愛を感じられないものは処分し、愛をもっているからこそコンパクトに収納するように工夫し、使いやすいように家の中の整理整頓をする。そんな彼女の哲学に憧れ、アメリカでセコハンショップへの持ち込みが倍増したという。

アメリカの代表的レイトショー『ザ・レイトショー・ウィズ・テヴィッド・レターマン』が2015年に終了してから始まった『ザ・レイトショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』に2019年出演した近藤麻理恵さん Photo by Getty Images

その「こんまりメソッド」のキーワードが著書のタイトルにもなっている「トキメキ」である。目の前にあるものは果たして自分の心がときめくのか、本当に必要なのか、それとも不要なのか。あなたが暮らすこのスペースのなかに収まるのか。それを考えることは、自分のことを考えることにもなる。まさに「こんまりメソッド」は自分と向き合う哲学ともいえるのだ。

ここで大切なのが、それぞれの価値観だ。「トキメキ」「不要なもの」の定義というのは、人それぞれ違うのだから。

もちろん、すっきりした家は誰にとっても憧れだ。必要なものを山をひっくり返して探さなければならないのは、「もの」に愛がないと言われても仕方がないだろう。それにゴミ屋敷になってしまうと、心もすさむ。不衛生にもなるし、心身ともに嫌な気持ちになる。

ゴミ屋敷の話はまた別の問題も絡んでくるが、「ゴミ屋敷ではなく自分が居心地がよく清潔を保って暮らせている場合」で「不要なものとは何か」を考えさせられるのが、伊藤理佐さんのマンガ『おいピータン!!』10巻2話の「呪いの湯のみ」である。

-AD-

トキメクものは人それぞれ

『おいピータン!!』は伊藤理佐さんによるオムニバスショート漫画。20年以上続く人気連載で、食を通じて人生のあるあるを描いている。マンガの通しの主人公の結婚後は『おいおいピータン!!』と名を変えて続いている。二人だけではない様々な「主人公」が登場し、別の物語でもすれ違ったりするのがシリーズとして読む面白さの一つでもある。今回ご紹介する『おいピータン!!』10巻2話の「主人公」は彼を初めて自宅に呼び、イタリアンを作ってもてなそうとしている女性である。

その女性が思わず食器棚の奥に隠したもの。それは修学旅行のときに買ったウサギ柄の湯のみだった。はっきり言ってダサい。可愛くない。しかし手が熱くならないし、飲み口も絶妙の厚さで、しかも丈夫。ダサいけど使い心地が良くて、オシャレなものを買っても結局そっちを使ってしまう。かつて、オシャレなうちのインテリアにこの湯のみは合わない! と割ろうとしたら、横にあった新しい湯のみだけが割れた。彼女はこれを「呪いの湯のみ」と呼んでいる。

(c)伊藤理佐/講談社『おいピータン!!』10巻より

こんなダサい湯のみを使っていることが彼にばれたらきっと嫌われてしまう。だってオシャレな私なんだもの――。そう怯える彼女がせっかく奥に隠したのだが……。

(c)伊藤理佐/講談社『おいピータン!!』10巻より

このマンガが伝えるのは、「不要なものって何だろう」「大切なものって何だろう」「自分らしい暮らしって何だろう」ということではないか。ヨレヨレだけれどものすごく着心地のいいTシャツ、けば立ってるけど小さい頃から愛用している毛布。穴が開いているけれど寝るときに最高のパジャマ。他人から見たら「これいらないよね」というものにだってトキメクことは決しておかしくないし、リラックスできるものが近くにあることも、暮らしていく中で大切なことだろう。

そしてなにより、「そんなダサいもの捨てなよ」と言うか言わないかで、相手の価値観もはっきりわかり、一緒に暮らせるかどうかの指針にもなるのではないだろうか。