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「助け合いの美しさ」があぶり出す“公助なき社会”という残酷な現実

『サンドラの小さな家』が描く「家」

貧困と「助け合う」人々

現在、「家」をめぐる2本の映画が公開中である。1本はアイルランド映画の『サンドラの小さな家』、そしてもう1本は米国アカデミー賞の有力候補にも上がっているアメリカ映画の『ノマドランド』だ。前者はシングルマザーが自分の家を作る物語、後者は高齢の女性が家を失って放浪生活をする物語と、対照的でありつつ、そこには深いところでの共通点がある。

 

本稿では、まず『サンドラの小さな家』で描かれている「助け合いの精神」について読み解きながら、『ノマドランド』をはじめとした「家」をめぐる作品を巡り、最終的に『サンドラ』に戻って、ここで描かれる“助け合いのコミュニティ”をどう評価できるかを考えてみたい。

映画『サンドラの小さな家』公式HPより

フィリダ・ロイド監督の『サンドラの小さな家』(原題Herself)は、DVの問題、シングルマザーの貧困の問題、そして住宅問題といったテーマが盛り込まれた必見の作品だ。

舞台はアイルランドのダブリン。2人の幼い娘の母サンドラは、夫ガリーの虐待から逃れ、女性支援グループの支援を受けてホテル暮らしをしている。家事手伝いとパブ店員をかけもちするサンドラは、公営住宅の順番待ちをしているが、回って来る気配はなく、遠いホテルから子供たちの送迎と通勤にかかるガソリン代に悩む。

サンドラは娘に語って聞かせた童話から、自分で家を建てることを思いつく。インターネットで、低価格でDIYで家を建てるノウハウを紹介する人物を見つけ、サンドラは家の建築に乗り出す。

だが、土地はない、お金もない、人手も足りないサンドラ。そんな彼女を、家事手伝いの雇い主で医師のペギー(かつて、同じく雇用していたサンドラの母とは深い友情関係にあったらしい)、偶然に出会った大工のエイドなど、さまざまな人びとが手助けし、サンドラは家の建築に乗り出すことになる。

一方で、毎週のガリーとの面会を、下の娘のモリーが拒むようになり、サンドラとガリーは親権をめぐって法廷で争うことになる……。

とりわけ物語が後半へと進んでいくにつれて、主演のクレア・ダンの見事な演技もあいまって、観客は作品世界に引き込まれ、気づけばサンドラの幸福を一緒になって応援しているだろう。

また、サンドラを助ける、主に労働者階級の人びと(大工のエイド、彼の息子でダウン症のフランシス、建物を不法占拠して暮らしているというパブの同僚のエイミー、カメルーン出身のユワンデなど)の助け合いの精神──アイルランドでは「メハル」と呼ばれる精神──が心を打つ作品だ。

この映画を観て私がまず想起したのは、ケン・ローチ監督の出世作『キャシー・カム・ホーム』だった。このテレビ映画もまた、家を失うシングルマザー(になる女性)を主人公としている。

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