2021.04.23

世界的知見による『新型コロナウイルス』に立ち向かうための心得

疫病と人類知(1)
ニコラス・クリスタキス プロフィール

目の前の脅威に対処するための道を示したい

本書を執筆した動機には、社会が目の前の脅威に対処できるようになってほしいという願いも込められている。2020年3月中旬、イェール大学は閉鎖した――もっとも、わたしの研究室をはじめ、多くの研究室はリモートで仕事を続けた。本書は同年の3月から8月にかけて執筆した。その間は、バーモント州の自宅で妻のエリカと10歳の息子とともに閉じこもって過ごした。成人した子どもたちも、この病気が発生する前に営んでいた生活からやはり切り離され、時折わたしたちの家に身を寄せた。

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わたしは、今誰もが直面していることを生物学的にも社会学的にも人々が理解する手助けができたらと思う。人間が過去に同じような脅威にいかに立ち向かったのか概略を示し、たとえ大きな悲しみを経たのちであっても、やがてたどり着くこの問題の向こう側へいかにして到達するのか説明したいと思っている。感染症や命にかかわる病を理解する力は、公衆衛生教育や、地球規模の健康介入の実施、末期患者と遺族をケアするホスピス医師、ネットワーク・サイエンスを用いた感染分析、社会現象を研究するアカデミックな社会学者といった、わたしの長年の経験がそのまま基盤になっている。

とはいえ、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、今なおとらえどころがない。現時点でも、生物学的に、臨床的に、疫学的に、社会的に、経済的に、政治的に知られていないことが多々ある。その理由の1つは、わたしたちの行動が事態の行く末を変えるからだ。何が起きるのかを確実に知ることは難しい。それに、時間を経なければ明らかにならないことも多い。たとえば、感染による健康への長期的影響や、現在行われている感染症対策がもたらす長期的影響(物理的および社会的距離の確保が、子どもたちの精神衛生と教育、現在成人を迎えている若者世代の経済的見通しに、どのような影響を与えるか)などだ。

また、ワクチンが実用化されるかどうか、いつ実用化されるのか、どの程度のリスクを伴うのか、有効期間はどのくらいかについても定かではない。こうした不確実性はあるが、幅広く検討された意見と科学的事実の最良の解釈を入手し、個人として社会として、現時点で可能な最善の決断を下さなくてはならない

疫病の流行は終わりを迎えた。だが、そこまでどのようにして至るかが、わたしたちの在り方と、この古代からの脅威をいつ屈服させるのかを定めることになる。

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第1章 小さな大敵との出会い
第2章 昔なじみの敵が戻って来る
第3章 引き離すこと
第4章 悲嘆と恐怖と嘘
第5章 わたしたちと「彼ら」の分断
第6章 一致団結する
第7章 深遠かつ永続的な変化
第8章 疫病はどのように収束するか

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