自分以外の誰かのために
何かできることを考えよう

2021年2月、トヨタは静岡県裾野市にヒト中心の街を目指す実証都市「ウーブン・シティ」を着工。

中村 今、トヨタ自動車東日本の工場跡地(静岡県裾野市)に誕生する未来都市「Woven City(ウーブン・シティ)」が注目を集めています。これは一体どのようなものなのでしょう?

大塚 実際に高齢者や子育て世代の家族、そして発明家といった方たちに住んでいただいて、AI(人工知能)や自動運転技術などを導入した街づくりを行い、多様性のある幸せな未来を模索するプロジェクトです。いわば実証実験都市ですね。

中村 壮大で実用的な実験ですね。

大塚 トヨタは今「幸せの量産」をミッションにしています。ウーブン・シティは「一人一人が幸せになるってどういうことなんだろう?」と考えながら、トヨタ以外の企業ともコラボレートし、様々な可能性を探る場所になります。

中村 その話にも関係するかと思いますが、トヨタは世界中で単独保有している、約2万3740件の特許を無償提供しています。そういうこともSDGsにつながると考えているのでしょうか?

大塚 環境に良い車を作っても、台数が少ないと地球に対するインパクトも小さくなります。良いものをできるだけ普及させるには、自分たちの特許も開放して、仲間を作ったほうがいいという発想ですね。

中村 素晴らしいと思います。ライバル企業とも手を取り合おうという考え方は、ずっとトヨタにあったものなのですか?

豊田社長の言葉、“Iではなく、「YOUの視点」”は、仕事だけでなく人生におけるすべての物事を円滑にしてくれる。

大塚 現在の社長である豊田章男の代になってからさらに進みました。ここ10年くらいでしょうか。社長がよく口にする言葉に、自分以外の誰かのために何かできることを考えましょうという、“Iではなく、「YOUの視点」”というものがあります。もともとトヨタグループ創始者の発明は、「夜遅くまで働いている母親を楽にしてあげたい」と、生産性を上げる自動織機を作ったのが最初なんです。

中村 創始者の思いが継承されている。

大塚 はい。トヨタの原点です。

どう働くかではなく
何のために働くか

2014年に誕生した小型三輪EV「i-ROAD」は、次世代の暮らしを支える新たなモビリティとして話題を呼んだ。

中村 トヨタは現在、移動に関わるあらゆるサービスを提供していく「モビリティカンパニー」であることを表明しています。大塚さんが統括するサステナビリティ推進室とは、何をする部署なのでしょう?

大塚 環境負荷の低い車づくりの他に、効率を上げてムダをなくす「トヨタ生産方式」のノウハウを活用しながら余計な移動を減らし、環境への負荷を下げる試み等にも取り組んでいます。企業内の意識改革とともに、様々な取り組みを持続可能な方向へリードすることが私の仕事になります。

自分と異なる境遇を持つ職場の人たちとのコミュニケーションから、多様性を活かす大切さを知った大塚さん。自身の働き方も変わったそう。

中村 トヨタというグローバル企業で幹部職の立場になって、ご自身の中で何か変わったところはありますか?

大塚 自然体で仕事をしたいと思ってやってきたので、自分では変わったという実感はありません。いろいろな経験をさせていただくなかで、応援してくれる方が増えたことがありがたいです。

中村 プレッシャーはありますか?

大塚 ポジションに対してはないですが、世の中はどんどん複雑化しますし、環境の問題も深刻化していくので、悠長にやっている時間がない。早く結果を出さねばというプレッシャーはありますね。

中村 プライベートではいかがでしょう。

大塚 仕事中心でやってきて地域とのつながりがないので、今後は何か小さなことでもいい、目の前の人に喜んでもらえることをしていきたいと思っています。ただ、コロナ禍で在宅勤務が増えたおかげで、家族と向き合う時間は増えました。きっと子育てをされている方は、もっと社会との接点があるのでしょうが……。

中村 子育てをしているとコミュニティが狭くなって、私はむしろ仕事を通して、少しでも社会とのつながりを持ちたいと思っています。

2012年には「未来プロジェクト室」室長に。プロダクトだけではなく、サービスを含めたイノベーションを実現するため、トヨタ以外の外部の人たちとパートナーシップをとりながら進行。そうすることで、たくさんの気づきがあったと言う。

大塚 そうなんですね。未来プロジェクト室にいた時にワーキングマザーの部下が一気に増えて、価値観は人それぞれであることを学びました。コツコツ積み上げるタイプの人もいれば、突然すごいアイデアを出すタイプの人もいます。結局は、その人らしく働くことが大切なんでしょうね。

中村 ご自身の働き方はどうですか?

大塚 どうしても長時間働いてしまいますね(笑)。でもそれがまわりへのプレッシャーになってはいけないので、「大事なのは時間じゃなくアウトプットだよ」と言いながら、自分でも気をつけています。実はオン・オフの切り替えのために、先日からスポーツジムに通い始めました。さすがに運動をしながら仕事のことは考えられないので、いいリフレッシュになっています。

「YOUの視点」だからこそ叶う「幸せの量産」は、トヨタが目指すモビリティ社会に欠かせない重要なミッション。

中村 最後に、大塚さんはこの先どんな世の中になってほしいと思っていますか?

大塚 コロナ禍を機に時間や場所の制約がなくなり、今までとは違う働き方をする人が増えています。今後は「どう働くか」ではなく、「何のために働くか」をあらためて皆が考え、その思いを活かせるインフラが整っていくといいなと思います。

中村 本当にそうですね。今日は有意義なお話をありがとうございました。


●情報は、FRaU SDGsMOOK WORK発売時点のものです。

Photo:Akiko Baba Illustration:Yu Fukagawa Text:Keiko Ueda Hair&Make-Up:Haruka Tazaki【Otsuka】、Hikaru Nadia(Threepeace)【Nakamura】 Styling:Mirai Tokuda【Otsuka】、Motoko Kawano【Nakamura】 Edit:Nana Omori

中村さん:シャツ¥37400、スカート¥42900/ともにカレンテージ(マルティニーク ルコント ルミネ有楽町店)☎03-5222-1758 イヤリング¥159500/カラットアー(ISETAN SALONE TOKYO)☎03-6434-7975 ローファー¥15950/ダイアナ(ダイアナ 銀座本店)☎03-3573-4005 大塚さん:すべて私物