東京から京都に移り住んだジャーナリストの秋尾沙戸子さんと、秋尾さんを京都の師とあおぐ漫画家の東村アキコさんの連載「アキオとアキコの京都女磨き」、今回のテーマは「菖蒲の節句」

来たる5月5日、関東ではなかなか見られない「京都ならではの光景」とは? 「男の子の節句」として知られるこの日、実は違う意味を持っていた? 清少納言、紫式部も親しんでいた京都に根付く「菖蒲文化」で、皆さんも疫病退散・厄払いにトライしてみませんか?

ラストを飾る、東村アキコさんの本連載書き下ろしのイラストも必見です!

京都に移り住んで驚いた!
この時期ならではの「ある光景」

5月5日、老舗旅館「柊家」は菖蒲とヨモギで屋根を葺き、お風呂には菖蒲を浮かべる。撮影/秋尾沙戸子

京都で暮らし始めてすぐの5月5日朝、面白い光景に出くわした。老舗旅館の屋根が、刀のように細長い菖蒲の葉っぱに覆われていたのだ。邪鬼を祓うために蓬を添えて屋根を葺く、いわゆる「軒菖蒲(のきしょうぶ)を見たのは、この時が初めて。厄落としや魔除けの風習が根付いている京都で、家ごと邪鬼払いをしようというのだから、軒菖蒲には東京育ちにわからない何か深い意味があるに違いない。

東京でも、端午の節句に厄落としと無病息災を願って「菖蒲湯(しょうぶゆ)に浴している人もいるだろう。旅館や銭湯で経験した人も多いと聞く。東京や大阪ではスーパーでも売られているため、葉菖蒲は簡単に手に入る。花を咲かせる菖蒲とは別品種。サトイモ科の長い葉っぱは、除菌作用があり、血行促進にも功を奏する。これを頭に巻けば風邪をひかないと言われたのは、そのためだ。

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ちなみに我家で「菖蒲湯」が恒例行事となったのは弟の誕生がきっかけだった。弟が生まれたのは、私が小学2年の時。私の後、初めて我家にやってきた赤ちゃんに、誰もが魅せられた。両親の愛情はもちろん彼に集中し私は置きざりにされるのだが、しかし、私にとっても弟は愛くるしい存在で、オムツを替えたり、粉ミルクを溶いて哺乳瓶で飲ませたり、離乳食を食べさせたりする「リアルままごと」が密かな楽しみとなった。子育ての疑似体験を通して、私は自立心旺盛な仕切り屋へと変貌していく。それまでは、不味い給食を完食するまで教室の隅っこに放課後も一人残されるような、ぼーっとした少女だったのだ。

私にとって「菖蒲湯」はある種、大人へのイニシエーションで、弟に抱いた保護者意識とリンクしている。白状すれば、私はあのクスリ臭い菖蒲の匂いが決して好きでなかった。だが、彼より8歳上の姉はそうとは言えない。鯉のぼりを掲げたり兜を飾ったりするのと同時に始まった「菖蒲湯」に浴するという我家の行事を、涼しい顔をして受け入れることが、立派な姉になるための通過儀礼に思えて、あの匂いに耐えた私である。