性愛の描写も原文に忠実に訳す

本上 いしいさんの『げんじものがたり』の「光君(ひかるくん)」は、スーパーイケメンで、しかもちょっとチャラチャラしているっていう、そこが面白いなと思ったんですけど。チャラさ具合のさじ加減は、どんなふうに決まっていったんですか? 『源氏物語』のいろいろな方の現代語訳を、この機会に読み比べてみたんですが、性愛に関する描写について、もっと控えめに表現されている人もいて。

いしい うーん。でも、原文を読んだら、やっぱりチャラチャラしているんですよね。たとえば「帚木」帖で、人妻の空蝉という女性が、光君に強引に迫られて、一夜を共にするシーンがあります。

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空蝉、泣いたはる。光君の、勝手そのもののふるまいの末。こころも、シクシク、やましすぎて。
ちょっとかわいそうやったかなあ、光君、そう思ってみやりながら、いや、でも、やってへんかったら、いまごろ絶対、後悔してるし。

原文では、
まことに心やましくて、あながちなる御心ばへを、言ふ方なしと思ひて、泣くさまなどいとあはれなり。心苦しくはあれど、見ざらましかば口惜しからましと思す。

「もう、やらんかったら、絶対、俺、後悔したし」って、ほんまに書いてありますしね。書いていないことは訳していないんですよね。

本上 性愛の描写については、訳する人によって配慮されてきたのかな。源氏のキャラクター設定が、それぞれ違う気がしていて、そこが読み比べるときの面白さでもあると思うんですけれども。

この間にどんなことが起きたのか。具体的に描かれているのだ Photo by Getty Images