海洋学者もやっぱり船には酔う!フィールド科学の魅力とは何か?

観測航海の大ベテラン、語る
蒲生 俊敬 プロフィール

戦略、計画、準備そして体力

海洋学者は誰でも、「海の○○を解明したい!」という強固なモチベーションに駆り立てられて研究をスタートします。研究の多くはフィールド調査、すなわち研究船による海洋観測を必要とします。研究船のシップタイム(航海日数)を獲得するには、いくつか関門をくぐり抜けなければなりません。そこには、ほかの研究者との競争があります。勝ち抜くための戦略が必要です。

まずは優れた研究計画の立案。研究目的が明確で重要性が高い、独創性に富んでいる、観測スケジュールが具体的で実現性が高い——等々のセールスポイントをわかりやすく記述するとともに、審査員からの質疑に明快に応答する。「素晴らしい、ぜひ実施すべき計画だ!」と絶賛されればしめたものですが、たいていはボツにされますから、めげることなく書き直して再トライです。

同時に必要なのが研究資金。観測作業のインフラ(例えば採水器、採泥器、それらを深海まで降下させるケーブルウィンチなど)は、たいてい研究船に常備されています。しかし特殊な試料採取装置や分析機器は研究者自身が準備しなければなりません。研究補助者を雇用するには謝金が必要です。また民間の観測船を傭船するなら、そのチャーター料もかかります。出港地や帰港地が遠方だったら旅費も必要でしょう。

これらの費用をまかなうため、科学研究費のような競争的資金の獲得に努力が必要です。優れた研究計画には自ずとお金もついてくるべきですが、厳しい現実の壁にぶつかり、採択されるまで時間のかかることもしばしばです。

さて首尾よく航海が実現したとしましょう。研究船による観測は、陸上での調査とはだいぶ勝手が違います。昼間働いて夜はゆっくり休めると思ったら大間違い。夜中の2時だろうと、観測予定点に到着すればすぐに作業開始です。夜型の人にはいいかもしれませんが、昼間だって作業があります。毎日の予定表をしっかりにらみ、空き時間に休息(睡眠)をうまく挟み込む要領よさが求められます。多少のオーバーワークにも耐えられる体力と健康が最後にものを言うようです。

初めての航海――淡青丸の上で真っ青に

東京大学海洋研究所(現在の大気海洋研究所)の大学院に入り海洋の研究を始めた年(1974年)、最初に乗った研究船が淡青丸。小型ながら、海洋研究を最優先に設計された素晴らしい船でした。

学術研究船「淡青丸(初代)」(1963年竣工、1982年退役、全長40m、258トン、乗組員23名/研究者10名:©東京大学大気海洋研究所)

そろそろ冬の季節風が吹き始める11月8日に1週間の日程で横浜港を出港し、千葉県東方の日本海溝の近くまで行きました。右も左もわからなかった私にとっては、「これが海洋観測か!」と驚きあり戸惑いありで、大いに鍛えられた航海でした。

最初なので、どうしても船酔いが気になりました。それまでに乗ったことのある船といえば遊覧船程度ですから、自分が船に強いのか弱いのかまったくわからない。「弱かったらどうしよう」という不安が先に立ち、酔い止めの薬をせっせと服用。多少の効果はあったらしく、ひどい船酔いはせずにすみましたが、副作用で意識が朦朧とし、頭痛にも悩まされました。

航走中ずっと波が高く、船は揺れ続けていました。観測点に到着して作業が始まり、採水や採泥などに無我夢中になると、気が紛れるせいか船酔いは軽減されるようでした。

やっと観測を終了しホッとしたのもつかの間、船が向きを変えた途端にすさまじい揺れ! 体のバランスを崩した私は、1本何万円もするという転倒温度計(現場水温や採水深度を正確に知るための特殊な水銀温度計)のたくさん入ったバケツを甲板上に落としてしまったのです。

幸い温度計は1本壊れただけでしたが、落とした瞬間「ああ、しまった!」と真っ青になり、船酔いがいっぺんに吹っ飛びました。とことん切羽詰まると船酔いしないということです。

乗船経験を重ねていくと、自分と船との相性が少しずつわかってきます。私の場合を言うと、たとえ船酔いしても3日経てば慣れる、そして一旦慣れてしまえば、その後はどんなに大揺れしても決して酔わない、という体質のようでした。「このサイズの船でこの程度の揺れなら、まず酔わないはず」などと冷静に予測できるようになれば、免許皆伝でしょう。

それにしても、船がどんなに大揺れしても決して酔わず、「船酔いとやらを一度経験してみたい」と豪語する人から、出航前の停泊している船の中で早くも酔ってしまい乗船を取りやめる人まで、船酔いのレベルは極端に違いますね。同じ人間なのになぜこんなにも差が出るのでしょうか、いつも不思議でたまりません。

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