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海洋学者もやっぱり船には酔う!フィールド科学の魅力とは何か?

観測航海の大ベテラン、語る

このたび『なぞとき 深海1万メートル——暗黒の「超深海」で起こっていること』を上梓した蒲生俊敬氏は、化学海洋学を専門とする研究者で、フィールド調査の大ベテラン。これまで、じつに1740日を洋上で過ごし、潜水船での潜航も15回経験したという。

それにしても、海洋や深海のフィールド調査とはどのようなものなのだろうか? 研究船とはどのような船なのか? 潜水船の居心地は? われわれ素人にはなかなか想像がつかない。

そこで、蒲生氏に過去の研究航海の記憶を語っていただいた。

化学海洋学とは

化学の徒のはしくれでありながら、私が最も関心を抱いたのは海洋学でした。海が好きだったのです。海洋研究のために化学がとても役立ちました。ほかに物理学や生物学をベースに海洋の研究を進める研究者もいます。そのような研究者たちと連携し、共通の研究対象として海洋をみつめ謎を解こうとする——そんな学際的雰囲気がとても楽しく思え、私は自分の研究分野を化学海洋学(Chemical Oceanography)と呼ぶようになりました。

化学とは、ひとことで言えば、化学式で表すことのできる物質全般を扱う科学です。海洋にはどんな物質があるのか、それらはどう動いているのか、どんな存在状態にあるのか——等々、話は際限なく広がっていきます。

具体的に研究の対象となるのは、海そのものである海水、上から接している大気、そして遥か下にある海底の堆積物や岩石など。これら海を中心とした複合的な自然環境において、周期表にある化学元素とそれらの同位体は、いったいどんな分布をしているのでしょうか。

海洋といえば、まず気になるのはやはり海水でしょう。海水の化学的性質(どのような化学物質をどのくらい含んでいるか)は、海域によっても、また深さによっても、わずかですが変化します。まず塩分(塩辛さ)が違います。化学元素の濃度や同位体比も変化します。

これは海水が物理的に動いていることと、生物活動に起因する化学反応とが重なり合うことによって、化学物質が海の中を3次元的にぐるぐると循環しているためです。そこに、海洋と接する陸・大気・海底との間で起こる化学物質の出入りも加わるので、話が面白くなります。

約2000年で海洋を一巡する深層循環(ブロッカーのコンベアーベルトに加筆)

海洋内で起こる森羅万象に関わる化学的情報がぎっしり詰め込まれた魅力的存在——それが海水なんですね。これらの情報をうまく取り出して読み解くことこそ、海洋を化学的な観点から理解する、つまり化学海洋学の醍醐味というわけです。

海水から情報を取り出すには、海水を採取して化学分析しなければなりません。どこの海水を調べるのか、必要な海水量はどのくらいか、どのような採取方法を用いるべきか、どんな方法で分析すればよいのかなど、研究計画がしっかり練り上がったなら、観測に出かける日も間近です!

海のフィールド調査には船が必要

海のフィールド調査は、ある程度大がかりなものにならざるを得ません。陸上の地質調査のように、個人レベルで行えるものではないからです。小さな湖や、ごく狭くて浅い内湾域の調査であれば、数名でモーターボートに乗れば実施できる場合もあります。しかし水深何千メートルもあるような外洋域ではとても無理です。

天候が悪ければ、調査はたいへん危険なものになります。熟練者を含む10名かそれ以上の観測チームを組み、しっかりした設備を持つ大型の船舶(研究船)を使用する必要があります。

私がこれまでに乗船した研究船の多くは、長さが50〜100メートル、トン数にすると300〜3000トンくらいでした。この程度の大きさがあれば、まず安心して外洋に乗り出すことができ、試料を採取したり、船上で化学分析したりできます(もちろん台風などが近づいて来たら逃げなければなりませんが)。

たとえば、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運航する「白鳳丸」という学術研究船をご存知でしょうか。世界屈指の研究船で、このあと本稿で何度か取り上げることになると思います。なお拙著『日本海 その深層で起こっていること』(講談社ブルーバックス) の最終章に、「白鳳丸による観測航海」というコラム記事を載せました。興味のある方はぜひ合わせてお読みください。

学術研究船「白鳳丸」(1989年竣工、全長100m、3991トン、乗組員54名/研究者35名:東京港晴海客船ターミナルより2012年撮影)

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