僕にできることは歌うことだけ

ミュージカル曲のカバーだけでなく、今だからこそリスナーの心に響くようなオリジナル曲を作りたいと思った。アルバム作りに賛同してくれた制作チームから、デモ音源を何十曲も渡され、浦井さんは、バラード、シティポップ、K-POP的なテイストの3曲を選んだ。

「欲張りすぎて、これまでの20年で得た歌に関するあらゆる技術、あらゆる歌唱法を駆使するハメになりました(笑)。『シアワセノカタチ』という曲で驚いたのは、僕がコロナ禍で考えていた気持ちがそのまま、歌詞に書かれていたことです。逢いたい。逢えない。でも、僕にできることは歌うことだけ。君が待ち続けていると信じられるだけで幸せ――。なんかね、僕自身もこのオリジナル曲に出会えたことで救われたし、すべての曲をレコーディングしながら励まされたし、スタッフさんと真剣にものづくりができたことで、心の底辺を彷徨っていた感情が浮上できた。音楽との出会いが力になる。その感覚を誰かにも手渡すことができたらいいなって思うんです」

『ウエスト・サイド・ストーリー』は中止になったが、その後、8月にシアタークリエでミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』、10月に新国立劇場で『リチャード二世』、12月にはまたシアタークリエで『オトコ・フタリ』がそれぞれ無事に上演された。今年になってからは、ミュージカル『GHOST』も無事に千秋楽を迎えることができた。

撮影/岸本絢
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劇場に足を運ばない選択も大正解なんです

「一つの舞台が終わるたびに、スタッフが『千秋楽おめでとう』という言葉を噛み締めています。感染防止対策のために、制作側の苦労は何倍、何十倍にも増えて、その中で最善を尽くしてきた。作品に関わる全ての人たちの勇気ある行動に、毎回涙が出ます。『GHOST』の演出は、ブロードウェイで『ミス・サイゴン』なども手がけてきたダレン・ヤップさんですが、当然来日もできず、ずっとリモートでの演出でした。

初日に『おめでとう』とお祝いのメッセージをいただきましたが、ダレンさんは、直接会って演出できなかったことをとても悔やんでいた。僕も含めキャスト、スタッフも直接お会いできなかったのはとても残念でしたが、公演が無事に幕をあけ、中には、舞台自体がコロナで中止になったり『GHOST』が久しぶりの舞台となったキャストもいたりしたので、初日を迎えられてみんな泣いて。僕たちは舞台に立てることが本当に嬉しくて、幸せなんです」

演劇は常に世相を映し出すものであり、どんな疫病が流行っても、演劇人たちは劇場の灯を消さなかった歴史がある。浦井さんは、その無念や悔しさが、アフターコロナの世界で、新しい何かを生み出すことができると信じている。

「エンタテインメントは、人間の心に訴えかける力を持っています。やる側も観る側も、演劇に触れることで、心が強くなったり、明るくなったり、豊かになったり。でもまだまだ、劇場に足を運べない人がいる。でも、僕からすると、『劇場に足を運ばない』という選択をする人も大正解なんです。僕が今回、アルバムを作ってよかったなと思うのは、劇場からしばらく距離を置くことを選択せざるを得なかった人たちに、メッセージを届けられたこと。僕の歌を聴いてもらって、『自分の身は自分で守るぞ』でもいいし、『今日も1日頑張るぞ!』でもいい。何でもいいから、心にギアを入れるきっかけになってもらえたら。あ、ギアじゃなくて、ブレーキをかけるのでもいいです(笑)。誰かにとっての日常の彩りになればそれで」

4月20日には、このアルバムを引っ提げて東京国際フォーラムでコンサートが開催される。昼の部のゲストは井上芳雄さん、夜の部のゲストは平方元基さん。「甘えっぱなしのマチネと、ふざけっぱなしのソワレになりそうです(笑)」と話したとき、浦井さんの表情が、この日一番の無邪気さで輝いた。