日本に180万人いる「発達障害」の人が苦手なこと

「発達障害と人間関係」について考える
最近、学校に通う子どもたちだけではなく、職場の中での大人のいじめや虐待といったニュースが報道されています。新しい人間関係になじめなかったりすると、それが家庭内や仕事内容にも影響を及ぼし、やがてパワハラやモラハラなどにつながり、そのまま放っておくとうつ病などの原因になってしまうことがあります。

そういったケースが増えていることもあり、最近では子どもの領域だけではなく、「大人の発達障害(神経発達障害)」という言葉も使われるようになりました。

そんな時代ですから、先日『発達障害と人間関係――カサンドラ症候群にならないために』(講談社現代新書)を上梓した宮尾益知医師のもとにも、職場での悩みや相談がよく寄せられるといいます。

どうすれば、発達障害の人と周囲の人たちとがお互いに「なんだか違う」と思いながらも、わかりあうことができるのか。この「生きづらさ」や「しんどさ」はいかにして軽減すればいいのか。豊富な臨床経験をもとに、宮尾医師が発達障害にまつわる「疑問」と「不安」に答えます。

モノマネが上手くて気づかれなかった特性

ある企業の管理職の知人から聞いた話ですが、会議中、自分の発言の順番になると、必ず隣の人が言った意見をほぼそのまま繰り返して、毎回お茶を濁す部下がいたそうです。会議のたびにいつも隣の人と同じ意見を繰り返すため、その上司は不思議に思っていました。

変化が早い業界なので、意外性のある意見や、独自の視点からの意見が求められるのですが、そういった発言は一切なかったと言います。

その後、別の部下から聞いて驚いたのは、彼はいつも上司のいないところで、その上司のモノマネをしていたとのことでした。それがあまりにも面白かったため、周りは彼の特性には気づかなかったのです。

そんなある日、彼が業務で大きな失敗をしたため、上司は呼び出して注意します。その場では「はい、わかりました」と素直に従います。上司は失敗の原因をはっきりさせ、次に同じことを繰り返すことのないよう叱るのですが、彼はしばらくするとまた同じ失敗を繰り返してしまうのです

上司としては3度同じ失敗を繰り返されては困りますから、今度は違った角度から、たとえ話を使いながら説明したそうです。するとまた同じく「はい、わかりました」と答えたのですが、その甲斐もなく、「2度あることは3度ある」となってしまいました。

日本人の68人に1人がASD

上司は「自分の叱り方、指導の仕方がよくないから部下は同じ失敗を繰り返すのかもしれない」と悩みます。このままでは社内外における自分自身の信用にも影響しかねません。

するとこの上司は彼に与えた仕事結果がいつも気になってしまい、夜も眠れなくなっていったのです。

私はこの話を聞いていて、この部下の男性は「ASD(自閉症スペクトラム障害)」の特性を持っているのではないかと思い、上司の人に具体的なアドバイスをしました。

ASDとは、コミュニケーションや興味、こだわりなどについて特異性が認められる発達障害です。詳しくは拙著『発達障害と人間関係――カサンドラ症候群にならないために』の中で説明しますが、社会的なやりとりの障害、コミュニケーションの障害、こだわりが強い、興味の範囲が狭いなどの特性が見られます。

罹患率は68人に1人の割合(1.46%)とも報告され、日本の人口に当てはめると180万人以上、世界の人口では1億人以上もいる計算になります。

知的障害を伴わない大人のASDの場合、成人して仕事を始めてから診断されたケースも多く、60歳になって初めてわかったケースも見られます。

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