元気な人からの声掛けが必要

プロの業者に部屋を片付けてもらい、すっきりしたところで、もう一度私は彼女と家主と3人で会う機会を持ちました。

「部屋がきれいになったら、ちゃんと片付けようって思えるようになりました」
女の子の表情は、少し明るくなっています。
住居確保給付金のおかげで、ひと月のいちばん大きな固定支出が賄われるので、気持ちに余裕も持てるようになったと言います。
早く職を見つけて、仕事をしたい、そう微笑む女の子の目には力があります。これなら早い段階で職も見つけられそうです。

「自分では気づいていなかったけど、鬱っぽかったのかな。家主さんに声をかけてもらわなければ、どんどん悪くなっていったと思います。自分ではどうしようもできなかったから。だからとても感謝しています。給付金がもらえている間に、もうどんな仕事でもいいです。仕事を見つけて、これからはお部屋もきれいに使います」

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彼女の部屋を後にして、中山さんと私は本当に胸をなで下ろしました。中山さんとは、暫く定期的に部屋を訪問するという約束もしたので、「声をかけ続けます」と中山さんもコミュニケーションの大切さを実感したようです。

新型コロナウイルスは、人々の心を縮こまらせてしまいました。感染するんじゃないか、感染したらどうしよう、職を失ったらどうしよう、給与が減ったらどうなるんだろう、そう思うことでどうしても前が向けません。だからこそ元気な人からの声掛けが必要なのです。

情報が溢れる中、自分に必要な情報を選ぶ余裕もありません。だからこそ必要な情報を提供してあげて欲しいのです。
そうすることで、皆で新型コロナウイルスに立ち向かっていくことができます。
一緒に乗り越えて行こう、こんな気持ちが住む場にあれば、どれだけ嬉しく心強いことでしょうか。

大阪の家主の橋田和正さんは「危なそうな子には、どう?ってずっと声かけてるよ」と教えてくれました。特に単身者は、このような災害時には孤独です。家主側からの声掛けを、とても心強く感じるはずです。
これが単に「大阪」という土地だからできるという限定的なものだと思いたくはありません。東京のような大都会でも、それは同じだと思うのです。

自分を気にかけてくれる人がいる、そう思って嬉しくない人はいないはずです。地道な声掛けが、追い詰められた末のゴミ屋敷や自殺を防ぐことになると私は信じています。

救済制度があると教えてあげること、挨拶をすること、誰かが気にかけていることを伝えてあげること――そんな少しのことが互いを救うことにもつながる Photo by iStock
不動産大異変 「在宅時代」の住まいと生き方』コロナ禍で多くの人が家にこもったことで近隣とのトラブル。騒音に匂い、ゴミ問題。そして自殺や孤独死…事故物件も増加する今、不動産で失敗しないためにはどうしたらいいのか。様々な具体例と共に賃借人側、家主側ともに役に立つ情報を集めた一冊(ポプラ新書)