武蔵野美大の異色の研究者が取り組む「宇宙気候学」とは何か?

地球気候のカギは太陽が握っていた⁉
リケラボ プロフィール

過去の宇宙線の変化を探る

——炭素14のほかにも宇宙線の変化を知る手がかりは何かあるのでしょうか。

宮原 南極の氷にも手がかりがあります。南極大陸では万年雪が積み重なり、分厚い氷の層ができています。この氷層に含まれているのがベリリウム10、ベリリウムの同位体です。ベリリウム10も炭素14と同様に、宇宙線によってつくられるので、氷の層の中の濃度変動を調べると宇宙線の変化を推定できます。

ただ南極の氷には樹木と違い、1年1年の層を区切る年輪のような目印がありません。だから周期的に変化していることが分かったとしても、正確な周期の長さを掴むのは困難です。

——そこでより正確にベリリウム10の経年変化を知るため、世界の誰も手を付けていなかった石灰岩の解析に挑戦したのですね。

宮原 宇宙線と雲の関係を研究している中国の若手研究者とお互いに学会などを行き来したりして、交流が続いていました。その彼が10年ほど前に、面白いものがあるよといって、景勝地として有名な中国・雲南省の白水台から採取したトラバーチン(石灰質堆積物)を見せてくれたのです。これに含まれているベリリウム10を測ってみてはどうかといわれたものの、最初は、ベリリウム10がどれくらい入っているかも未知数で、半信半疑でした。

けれども物は試しと、南極氷床のベリリウム10の解析をサポートしてくださった弘前大学の堀内一穂先生に相談に乗ってもらい、分析をスタートさせたのです。濃度がかなり低く、また降雨の影響も受けていることがわかり、一筋縄ではいきませんでしたが、解析を進めると1年単位での宇宙線の変動が浮かび上がってきました。

ベリリウム10は半減期が約140万年とかなり長いため、これを使えば数十万年前までの変動を1年単位で追える可能性が出てきたのです。100万年前のトラバーチンがイタリアで確認されていたりもするので、今後の研究の広がりも期待できます。

中国雲南省の白水台に広がる石灰棚(左)と、白水台より採取された石灰質堆積物の年層(右)

——一方では日本の古文書を使った研究でも論文を出されています。

宮原 太陽がどのようにして気候に影響しているのか、そのプロセスを追うには、やはり最終的には気象のような短い時間スケールに取り組む必要がでてきます。太陽活動の一番短い周期は、自転によって生じる約27日周期で、これに注目しているのです。

使える研究資料があれば何でも試してみるのが、私の研究スタイルです。江戸時代の古典籍に日々の天気の記録が残されていて、雷の記録が沢山含まれているということを知ったので、これを使って17世紀後半から約200年間に渡る雷の発生周期を調べました。

古典籍に残されていたのは、弘前、八王子と江戸の雷です。200年のあいだには、今よりも太陽の活動が活発な時期も不活発な時期もありました。そこで、時代ごとに、雷の周期の変化を調べてみたのです。すると太陽活動が活発化するほど、雷に27日周期が強く現れていたことがわかったのです。

太陽活動が活発化すると、太陽放射に27日周期が強く現れるようになりますし、太陽フレアも起こりやすくなって太陽から吹く風に強い27日周期が生じるので、地球に降り注ぐ宇宙線の量も27日周期で変動します。メカニズムはまだ分かりませんが、太陽が気象の時間スケールでも影響を及ぼしている可能性が見えてきたのです。

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/