火災や一酸化炭素中毒をどう防ぐ?「薪ストーブの安全学」教えます

「室内で火を焚く」不安を解消するには

揺れる炎に目をやりながら、片手にブランデー・グラス。初老の名探偵が薪ストーブの炎を前に、ロッキングチェアに腰かけて難事件解決のため、脳細胞をフル回転させている──。

薪ストーブと聞くと、こんな場面を連想する人も多いのではないでしょうか。この記事の筆者である科学ジャーナリスト・三島勇さんも、実際に薪ストーブと出会う前は、そのようなイメージしかもっていなかったそうです。

ところが、薪ストーブを使った冬を3回過ごした今では、その「妄想」は打ち砕かれ、まったく違った印象を抱いているのだとか。

薪ストーブは手強く、奥が深い。扱う人の人間性を試し、忍耐力を要求する。一方で、その暖かさは格別。薪の準備や炉内の掃除、薪の投入など、面倒なことは多々あれど、薪がしっかり燃えてくれると、かけがえのない"相棒"だと感じられるというのです。

興味深いのは、技術開発の進んだ現在の薪ストーブが、「地球温暖化」防止策の1つとして注目を集めているということ。化学燃焼をともなうこのレトロな暖房器具がなぜ、喫緊の課題である「脱炭素」や森林保護に貢献しうるのか。ふしぎに思いませんか?

森林面積が国土の3分の2を占める日本では最近、薪ストーブの使用が増えています。科学ジャーナリストが悪戦苦闘した実体験に基づく「薪ストーブの科学」を、短期集中連載でお届けします。

薪ストーブと料理

 薪ストーブは、扱うのは少々大変だが、よく暖まるし、環境問題抑制の一手段にもなる。この連載では、そのことをふまえて「だからいいですよ!」と書いてきた。だが、薪ストーブの「処女航海」時代は、とてもそういえる経験も精神的な余裕もなかった。

たとえば、薪ストーブを使った調理をしようと、黒衣の薪ストーブの本体上部に鍋を置いてシチューをつくろうとしたことがある。しかし、鍋を温められるほどには上部の鋳鉄板が高温にならず、断念せざるをえなかった。炉内の上部に触媒装置があり、炉内(火室)の火が直接、鋳鉄板に伝わらないのだ。

すでにできあがった料理を冷やさない程度に温めるのがせいぜいで、今では、水を入れた器を加湿器代わりにして載せている。

火室を使っての料理にも挑戦した。

わが黒衣の火室はそれほど大きくないため、ピザを焼くといったことは難しい。妻がつくってくれるのだが、ジャガイモやサツマイモをアルミホイルで包み、熾火(おきび)の上に置くと、1時間前後でふっくらとした蒸し焼きができる。

ジャガイモはバターを載せて食べるだけでいい。サツマイモはそのままでも美味しいが、アイスクリームを添えるとちょっとしたデザートにもなる。手軽に楽しめるので、我が山小屋の冬の定番になっている。

とはいえ、失敗はつきものだ。ある日、サツマイモを燃え盛る火室に入れたまま、忘れてしまった。アルミホイルを開けると、姿形がなくなっていた。

ここで満足してはいけないが、「痩せたソクラテス」よりも「肥ったソクラテス」になりたい。そう思い、薪ストーブクッキングの本を買って読んだ。肉料理や魚料理など、食欲をそそる品々に目がいく。どんな料理も薪ストーブでできそうだが、いろいろと道具が必要なようで、まだ踏み出せていない。

夢はじっくりと実現していこうと思っている。

【写真】薪ストーブで料理さまざまな料理ができそうなので、じっくりと実現していきたい photo by gettyimages

薪ストーブの「楽しみ」と「不安」

薪ストーブを使っていると、「楽しみたい」という気持ちと「不安」とが、表裏一体としてある。「あった」といいたいところだが、じつは今もある。

薪ストーブを使いはじめた頃は、火を起こした後に外出することにかなりの躊躇があった。薪ストーブは、エアコンや石油ストーブ、石油・ガスのファンヒーターなどと違い、すぐに停止、消火ができない。「火の用心」という言葉を幼い頃から聞かされ、記憶の奥底にこびりついている。

【写真】ストーブの火「楽しみたい」という気持ちとともに、「不安」もある photo by gettyimages

軽井沢町追分では、森閑とした夜半に、消防団が防火を呼びかける。その声と「カーン、カーン」と繰り返される鐘の音を聞くと緊張する。朝早く外出するときは薪ストーブを使わないようにしたり、外出時間を考えて薪をたくさん炉内に入れたりしないなどの「対策」を取った。

しかし、寒い朝に薪をたくさん入れた後、急に出かけなくてはならなくなることもある。薪ストーブを設置したハウスメーカーの担当者は、「急な外出の際は薪ストーブのドアがしっかり閉まっていることを確かめ、周囲に可燃物がないことを確認してください」などとアドバイスをしてくれる。

それでも、「火の用心」と繰り返し聞かされた世代の私は、薪から勢いよく立ち上がる炎を見て玄関を出ていくのには、勇気がいる。今では薪ストーブを焚いたままにして外出することに少しは慣れたが、ときおり、外出先や車の中で、我が山小屋で火事が起きているかもしれないなどと、ふと考えてしまう。

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