何よりも残念なのは、影響力のある立場の研究者たちからこうした若者が置かれている惨状を改善する動きが起こらないことだ。一部のノーベル賞受賞者などが訴えてはいるが、実績のある研究者たちの多くにとって、自身の不利益にはならないこの若者搾取の構図を改善することは優先事項ではないのだ。

冒頭で紹介したシニア研究者のメールを「無責任」と感じたのも、まさにこの点についてだ。10年後、20年後に業界にいられるかも分からない状況にある若手に対して、若手から搾取している立場の者が、その搾取の構図を変えようと動くこともせず「10年後、20年後に業界の中核を担う若手」という表現を使うことは無責任以外の何ものでもない。

業界の将来構想としていま考えるべきは、若手がなぜ将来構想に参加できないのか、である。将来に対して心配すべきは、若手からチャンスを奪うだけ奪った果ての業界の姿ではないだろうか。

-AD-

日本社会の基盤が崩れはじめている

若い世代が搾取され、世代循環を起こす基盤作りの機会をも奪われる。これでは世代循環は起こりようがないし、業界を持続させることも難しい。そしてこのような世代循環の問題は、研究業界に限った話ではない。

社会全体を見ても、例えば30年前には20%を下回っていた非正規雇用の割合が現在では40%に迫ろうとしているが、年代別に見ると35歳までの若い世代の割合がそれより上の世代の2倍以上速いペースで増加している総務省「労働力調査」より)。日本社会における世代循環の基盤は次々と崩れてきているのだ。

今の日本社会は、性差別、障害者差別、外国人差別など未だに根強い様々な差別や、非正規雇用の割合にも見える広がり続ける格差、また他国に比べ明らかに後手に回るコロナ対策など、多くの面で行きづまり感が強い。このまま世代の循環が遮断され続ければ、日本社会は近い将来、社会を維持・発展させていく機能を根本から失ってしまうのではないだろうか。