例えば、私のよく知る同年代の国立大学の准教授は、朝8時台に出勤し、夕方に一度、家族にご飯を作りに帰った後に再度出勤し深夜に帰宅するという生活を続けているのだが、業務時間の大半は授業や会議、その準備や学生への指導に費やされ、自分の研究を進められるのは夏休み等の授業がない期間だけとのことである。

長期職を得た場合のこのような事情を知っているので、研究活動を優先するためにあえてキャリアアップを断念したり、海外に拠点を移すという研究者も少なくない。

-AD-

国が「競争力」を奪っている

このように、日本の研究者のキャリアは「進むも地獄、退くも地獄」なのである。その背景にあるのが、文部科学省が進める「競争的資金」の増強だ。

大学等の研究機関の運営や研究者が研究を進めるには資金が必要となるが、この資金には大きく分けて「基盤的資金」と「競争的資金」がある。

「基盤的資金」は主に大学等の研究機関に支給される教育や研究の基盤に用いられる資金を指し、「競争的資金」は公募などの形で研究機関や研究者個人が「競争」によって勝ち取る資金を指す。

20〜30年程前までの日本では基盤的資金が今より遥かに重要視されていたのだが、米国を初め欧米諸国が、全体としてのアウトプットのレベルを競争によって引き上げる狙いから競争的資金を増強する方向にシフトすると、日本もこれに追随した。

しかしその結果訪れたのは、上述した通りの惨状である。

惨状に至る大まかな過程はこうだ。まず競争的資金の増強に伴う基盤的資金の削減が大学等の人員削減を引き起こした。これが研究以外の業務を激増させ、大学等に所属する若手研究者から競争に向かう土台作りの時間を奪ってしまった。また同時に、大学等の人員削減は長期職の募集枠の減少に直結し、若手の多くが短期職から先に進めない状況を生んでしまったのだ。