撮影の合間に見せた集中力は、徹底して相手のことを見て、声を聞く姿勢に表れていた。歌舞伎の名家に生まれたことで、「見る、聞く」というシンプルな感性が、幼い頃から鍛えられているのかもしれない。松さん自身は、「代々、歌舞伎をやり続けてきた家に生まれて思うのは、ずっと社会からはみ出し続けてきたのかなーと言うことなんですが」と苦笑いするのだが……。

「ただ、どうしようもなく、芝居が好きな人たちだったんだなぁとは思うんですね。ですから、堂々と、社会、世間からはみ出して、自分の姿をさらけ出し続けてきた家なんだろうな、と。私は、父が歌舞伎だけでなく、ミュージカル、シェイクスピア劇、テレビドラマなど、色々な仕事をしている人だったおかげで、歌舞伎を、“お芝居”と同じラインの上に並べて見ることができました。どのお芝居にも真っすぐに向かっていく父の姿は、とにかくベストを尽くす、という思いに影響を与えたような気がします。歌舞伎の客席が再び賑わうことを心から祈っています」

人前に出る仕事ということもあり、周囲にいい影響が波及していくことは、もちろん意識している。

「良いことも悪いことも伝染していくと思います。だからといって無理ばかりしても辛い。その日の空気、雰囲気を感じて、やれるだけのことをやって、ちょっと今日は難しい日だったな、ということがあっても、また、より良い日がくることを信じて……」

最後に投げかけた、「経験を積んで見えてきたことは?」という質問に対する松さんの答え。それが、人としてのJAXULYに溢れていた。

「表現する仕事は、最後は本人が一歩踏み出すことではじまる、叶うものに感じますが、そこに至るまでにたくさんの人に支えられていることは間違いありません。そこが、見えているつもりでも、まだ見えていないのかもしれないし……。『全部わかっている』自分には、いつまでたってもなれません。これから先も、ずっとなれないかもしれません。

だからこそ、自分の見えていないところで支えてくれている方たちにも感謝を忘れずにいたいです。こちらの勝手な気持ちではありますが。たくさんの方に支えられているからこそ、踏み出す瞬間は自分一人である、孤独であることも、忘れないでいたいです」

松たか子
1977年生まれ。東京都出身。94年、NHK大河ドラマ「花の乱」でテレビドラマ初出演。「HERO」シリーズ、「カルテット」「ノーサイド・ゲーム」など話題のドラマに多数出演。「告白」「夢売るふたり」「小さいおうち」など映画の代表作も多数。「アナと雪の女王」シリーズではエルサの声を担当。舞台でも活躍している。

「大豆田とわ子と三人の夫」
3回結婚して3回離婚したバツ3・子持ちの社長、大豆田とわ子(松たか子)が、3人の元夫(松田龍平、角田晃広、岡田将生)に振り回されながら日々奮闘するロマンチック・コメディ。脚本家・坂元裕二による完全オリジナル。4月13日(火)21時~フジテレビ系列にてスタート。


●情報は、FRaU2021年5月号発売時点のものです。
Photograph:Tadayuki Minamoto Hair&Make-up:Ryoji Inagaki(Maroonbrand) Styling:Hiroko Umeyama(KiKi) Text:Yoko Kikuchi