色とりどりの椅子が輪になって置かれている、筆者のクリニックの対話室。

オープンダイアローグの対話によって、なぜこころは癒やされるのか?

そこに魔法はなく、対話だけがあった
オープンダイアローグ発祥の国フィンランドでは、対話によって、精神面に困難を抱えた人の8割が回復しているという。日本人医師として初めて、オープンダイアローグの国際トレーナー資格を得た一人である森川すいめい氏が、自身の体験をもとに書き下ろした新刊『感じるオープンダイアローグ』から、「序章」の一部を特別公開します!
 

対話の場を開く準備

ある冬の日の夕方のことだった。

17歳の彼女は何か得体の知れない恐怖に慄【おのの】き、家族は娘の様子にどうしたらいいかわからず、その人たちの世界は不安に覆いつくされていた。異変が起きてから、すでに数週間が過ぎていた。

家族は、娘を精神科の病院に連れていかなければと考え、どこへ行けばいいか知人たちに聞いてまわった。そして、そのうちの一人が私たちのクリニックを紹介してくれた。

ご家族から電話を受けた私たちは、すぐに話を聞かなければならないと思い、その日の夜に会うことにした。

娘さんと、ご家族と、知人の方がクリニックに来られた。

受付を済ませ待合室に座っていたご家族に、私たちは、

「よくいらしてくださいました」

と声をかけた。

「森川と申します。こちらで医師をしています」

もう一人、スタッフの武田(仮名)も自己紹介をした。

私たちは白衣を着ない。白衣は先生と患者というような関係性を連想させ、緊張を生むかもしれない。みんなが、話したいと思うことを話しやすいように、できるだけこころを配ろうと思っている。

「あちらの部屋で、お話をお聞きできればと思っています」

と、その人たちを部屋の方向に招き、扉を開けて、その人たちに先に部屋へ入ってもらうようにした。

これまでの苦悩を深く労わる

部屋にはピンク色や緑色をした椅子が6つ、輪になって置いてあり、その中央には木目調の丸くて小さなローテーブルがある。

テーブルの上には、薄いクリーム色の布カバーがされたティッシュ箱があり、白い壁にはクリスマスツリーが刺繡された布がかかっていて、観葉植物が置かれた白い棚の上からはムーミンやスナフキンたちがこちらを見ている。

「座りやすい席へどうぞ。お手荷物はよかったら椅子の横の台を使ってください」

そう声をかけ、そのあとで私たちは空いている席に座った。そして、

「あらためまして。森川と申します」

「私は武田と申します」

と、それぞれ2回目の自己紹介をした。

「今日は、いらしてくださってありがとうございました。少し遠かったからお疲れになられたでしょう。遅い時間になってしまい申し訳ありませんでした」

精神科の外来に初めて行くときは、きっと緊張していると思うし、何を言われるのかとても不安だと思う。精神面の困難が現れるまでに深く悩まれてきただろうし、困難に直面してからここに来るまでの間にも、様々な傷を負っているかもしれない。これ以上傷つきたくないと思っていたり、話すことを恥ずかしいと感じていたりする人もいる。

私たちは、ここまでの間に、その人たちの尊厳が傷つけられてしまっていないかを気にしながら、来てくださったこととこれまでの苦悩を深く労わりたいと思っている。

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