いつもはおとなしい夫の激しい言葉に驚いた彩香さん。その場では「ごめんなさい。決してあなたのことをバカになんかしていません。許して」とひたすら謝りまりました。その様子に中田さんも一旦は怒りを静めたかに見えたのですが、そうでもなかったようです。それから数か月後、中田さんは予想もしなかった行動に出ました。
なんと、彩香さんには一言の相談もなしに、勤務先の病院を退職したのです。
中田さんは言います。
「妻をぎゃふんと言わせてやろうと思ったんです。退職してすぐ、父から継いだ会社に乗り込んで宣言してやりましたよ『ここの会社の株主は誰だ?! オレだ! 今日から妻じゃなくてオレの言うことを聞いてもらう!』と」
驚いたのは従業員です。今まで一切仕事に口を出したことがない、しかも彩香さんとくらべて商才もなさそうな中田さんが、会社を取り仕切るというのですから。
中田さん夫婦の別居が始まったのも、この直後でした。
こうして社長に突然就任した中田さんですが、結果は火を見るよりも明らかでした。あれやこれや社員に指示を出すものの、その結果何か面倒が起きると、「あとは頼んだ!」と社員に丸投げでどこかを消えてしまうのです。
あきれた古参の社員は続々と退職してしまいます。それでも、誰かが経理や物件の管理をしなければいけません。会社の窮状をどこからか聞きつけて調子のいいことを囁く業者に管理を任せたものの、それが更に会社の経営を悪化させていきました。修繕費用などの経費はどんどん高くなっていったからです。