カチャカチャカチャと卵を箸で溶く音が時限爆弾のように聞こえ、とてつもない不安に観客を陥れる……。それは、34歳の川崎僚監督が制作した映画『Eggs 選ばれたい私たち』(4月2日公開)のワンシーンだ。本作は、多様な作品が集まることで有名なエストニアの「タリン・ブラックナイツ映画祭(2018)」に日本映画唯一のコンペティション作品として選出され、世界中から注目を集めた話題作だ。

卵子提供者(エッグドナー)になりたい2人の女性、純子(寺坂光恵)と葵(川合空)の成長物語だが、卵子提供に関する法律が存在せず、卵子提供治療が認められていない日本の課題とともに、社会規範により女性の選択肢が奪われている問題を浮き彫りにする。

本名の川崎僚子から「子」を取り除き、性別で作品が評価されないように「僚」と名乗る川崎監督に、本作に込めた思いについて聞いた。

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卵子提供も婚活も、30歳で区切られる

――この映画で衝撃だったのは、卵を溶く場面です。

川崎監督:脚本を書いていたときに、「卵を溶く音は時計みたいだな」と思いました。卵子の数は加齢とともに減少するので、エッグドナー(卵子提供者)の年齢制限を30歳までに設定している団体が多いのですが、実際に女性が30歳になったからといって、女性の何かが劇的に変わることも悪化することもない。それなのに、日本では「30歳」という区切りが女性につけられ、「女としての賞味期限が切れる」という急かされた気持ちになってしまう。それを言葉ではなく、音で表現したかったんです。

でも実際、卵を溶く音は時計のように正確ではなく、人によって速さもリズムも違う。卵をぐちゃぐちゃと溶く動きには純子のぐちゃぐちゃな心が反映されています。

『Eggs 選ばれたい私たち』より

――映像と音で純子の心理を表現しているわけですね。タイトルの「選ばれたい」という言葉ですが、いまの若い世代にも「女性は選ばれるもの」という意識はあるのでしょうか?

川崎監督:私たちは不景気のなかで生まれ育ちました。就活も企業に選ばれ、婚活も相手に選ばれる。「選ばれたい」というネガティブな言葉をタイトルに使うことに迷いはありましたが、逆にそれが私たちの世代らしいな、と思いました。

エッグドナーしかり、婚活しかり、「30歳」で女性はなぜか区切られます。40歳になっても妊娠できる可能性があるのに(※)、若いうちに結婚して子供を産まなくては、という世間的な価値観に縛られてしまっている。目の前の人に言われたわけでもないのに、勝手に社会規範に合わせて自分の価値を下げてしまうんです。「選ばれたい」という、一種の強迫観念が私たちには刷り込まれているのだと思います。

※編集部注(4月8日):「40歳でも妊娠できるのに」と記されていましたが、“40歳でも妊娠が難しくない”という誤解を招く表現であったため、川崎監督に発言の意図を確認したうえで、「妊娠できる“可能性がある”のに」に訂正いたしました。
女性は35歳をすぎると妊娠の確率が著明に低下するいわれています(日本産婦人科学会HPより)。ただ、それはあくまで統計であり、子を授かるか否かは必ずしも年齡によらないところもあります。また、人生の選択において、40歳をすぎて妊娠を希望することは個人の自由であり、そのこと自体を否定しないでいただけたら幸いです。