1DK高層マンションで孤独死、死後1ヶ月が経過した男性の部屋に「存在しなかった」もの

コロナ禍における孤独のリアル
菅野 久美子 プロフィール

感情を無くせば、心は平穏でいられるから

キッチンを見ると、栄養ドリンクとはちみつ梅干のパック、即席めんが無造作に転がっていた。それが最近、彼が口にしたものだった。しかし、その他には、何ひとつ栄養となるものがない。上東さんは、そんな体の状態だったからこそ、体液の量も少なくなったのだろうと予測する。

「これは想像だけど、奥さんが亡くなった後、自分の心の傷の痛みを感じない方法を彼は見つけたのかもしれないよね。それは、感情を無くすことなのかもしれない。自分の感情を無くせば、心は平穏でいられるから。毎日をただ生き延びるのに精いっぱいで、なんとか、一日一日ただやり過ごそうと、諦めに似た境地だったのかもしれない」

上東さんが、遺品整理を始めた。奥の箪笥に手をつけると、赤や黄色など、色とりどりの女性の物の衣類が出てくる。これは、かつての奥さんの持ち物だろう。それは、薄ぼんやりとした暗く閉ざされた視界に突如現れた鮮やかな色彩で、ごみ屋敷のこの部屋には不釣り合いだったが、唯一の温かみを感じるものでもあった。衣類をゆっくりと引き出しながら、上東さんは、故人に思いを寄せる。

「彼は死を迎える最後の最後の瞬間まで、ストーブをつけることもなく、暖かな掛け布団に包まることもなかった。目を閉じ、寒い部屋の中、身体だけが凍えて亡くなったと思う」

 

上東さんは、そういうと悲しそうに奥さんの遺品に目を落とす。私は寒さに凍える男性の最後の姿を想像する。それは、想像を絶するものだった。

「それでも彼が亡くなる前には、あっちの世界の奥さんが目の前に現れて、彼に温かい手を差し伸べてくれたと僕は思いたい。エゴかもしれないけど、最後ぐらいはこれまで頑張ってくれてありがとうと誰かが彼にほほ笑んでくれたって思いたいんだよ。だってこの社会で、彼の存在に寄り添う人が1人もいなかったならば、これは大問題だと思うから」

上東さんの優しさが私の心に突き刺さる。

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