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「脱炭素」にどうつながるのか?薪ストーブと地球温暖化の意外な関係

薪づくりが森林の機能強化に役立つ!?

揺れる炎に目をやりながら、片手にブランデー・グラス。初老の名探偵が薪ストーブの炎を前に、ロッキングチェアに腰かけて難事件解決のため、脳細胞をフル回転させている──。

薪ストーブと聞くと、こんな場面を連想する人も多いのではないでしょうか。この記事の筆者である科学ジャーナリスト・三島勇さんも、実際に薪ストーブと出会う前は、そのようなイメージしかもっていなかったそうです。

ところが、薪ストーブを使った冬を3回過ごした今では、その「妄想」は打ち砕かれ、まったく違った印象を抱いているのだとか。

薪ストーブは手強く、奥が深い。扱う人の人間性を試し、忍耐力を要求する。一方で、その暖かさは格別。薪の準備や炉内の掃除、薪の投入など、面倒なことは多々あれど、薪がしっかり燃えてくれると、かけがえのない"相棒"だと感じられるというのです。

興味深いのは、技術開発の進んだ現在の薪ストーブが、「地球温暖化」防止策の1つとして注目を集めているということ。化学燃焼をともなうこのレトロな暖房器具がなぜ、喫緊の課題である「脱炭素」や森林保護に貢献しうるのか。ふしぎに思いませんか?

森林面積が国土の3分の2を占める日本では最近、薪ストーブの使用が増えています。科学ジャーナリストが悪戦苦闘した実体験に基づく「薪ストーブの科学」を、短期集中連載でお届けします。

SNSでつながる「薪づくりグループ」

前回の記事の末尾では、薪の供給元の多様化を模索していることを紹介した。では、具体的に何をしたのか──疑問に思われた人もいるだろう。コロナ禍での3冬目を過ごすにあたり、やれることはやったのだ(と思う)。

東京から軽井沢に移住した「先輩」から、薪づくりグループがあると教えられた。軽井沢周辺で伐採された樹木が出るとSNSでよびかけ、集まった仲間で、丸太をチェーンソーで数十センチの長さにする「玉切り」にして分ける。こうしてつくった玉切りを各自が持ち帰り、それぞれが斧や薪割機で割って薪にし、薪棚に積んで乾燥させていくのだという。

薪づくり仲間は、仕事から離れて悠々自適な暮らしをしている比較的高齢な人が多く、薪づくりを「趣味」にしている人もいるという。私自身も「比較的高齢」の部類に入るが、いまだ年金受給者にはなれず、生活費を稼ぐための労働をする必要がある。時間もそう自由にならないし、薪づくりを「趣味」とする心のゆとりはない。

乗用車が汚れ、破損しかねないことを厭わないかぎり、少なくとも軽トラがないと、自分では玉切りを運べないと考えた。軽トラを買えばいいのだろうが、もう一台車をもつほどの経済的ゆとりもない。必要なときだけ軽トラを借りるという手段もあるが、レンタルしても人から借りても、それ相応の料金や手土産がいる。

軽井沢町には、伐採された樹木の幹や剪定された枝が持ち込める「軽井沢町貯木場」がある、と妻から教えられた。持ち込まれた樹木は、薪やチップとして再利用される。幹は無料でもらえるから、妻は「貯木場からもらってくれば薪がつくれるよ」と提案する。

近所の人に聞くと、薪集めグループがここにも集結している。燃焼時間が長く、「いい薪」と噂されているナラなどの広葉樹は、運び込まれると瞬く間にもっていかれるそうだ。運よくいい薪材に出合えても、玉切りにしたり運び出したりするのは「自助努力」。チェーンソーや軽トラは必須のようだ。

【写真】貯木場山と積まれた木材を運び出すのは至難だ photo by FRANK211

「薪の宅配サービス」

もともと、手間がかかるうえに力もいる労働を苦手とする(すなわち無精な)私は、いろいろと言い訳をして、いくつかの薪供給法を真剣に考えてはこなかったが、軽井沢町に近い小諸市の知人からもたらされた情報には興味を抱いた。

それは、長野県伊那市高遠町に本社を置く「ディーエルディー(dld)」の「薪の宅配サービス」だ。注文をすれば薪を運んできてくれる販売業者は、軽井沢周辺にはいくつもあるが、dldは顧客の薪棚の減り具合を見て、使用ペースに合わせて薪を補充してくれる。薪の増減に心を乱されることから解放されると考えた私は早速、軽井沢町にあるショールームを訪ねた。

そこで「薪の宅配サービス」のチラシをもらった。林業事業者から適正価格で木材を買い取り、薪に加工し、各家庭に届ける。薪ストーブで活用してもらい、バイオマスエネルギー利用で二酸化炭素を削減し、地域の環境保護に貢献する──。チラシにはそう記されていた。

【図】薪の宅配サービス薪の宅配サービス

詳しく知りたいと思い、dld本社を訪ねることにした。

2021年3月6日朝、自家用車で我が山小屋を出る。中央自動車道の伊那インターを降り、遠方に雪を戴いた中央アルプスの山脈(やまなみ)を望みながら、木々に覆われた山々が迫る伊那市内に入る。

伊那市内を流れる三峰川から望む、雪をかぶる中央アルプス

中心街を抜けて、市内を東西に流れる三峰川に沿って東にしばらく走り、右折して三峰川に架かる橋を渡ると、dld本社ショールームが目に入ってきた。2時間半ほどのドライブの後、燃える薪ストーブの前で、同社副社長の白鳥政和さんと同社バイオエネルギー事業部の木平英一さんから話を聞いた。

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