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「燃える」とはどういうことか?薪ストーブで考える「燃焼の科学」

効率を高める「いい燃料」の条件とは?
揺れる炎に目をやりながら、片手にブランデー・グラス。初老の名探偵が薪ストーブの炎を前に、ロッキングチェアに腰かけて難事件解決のため、脳細胞をフル回転させている──。

薪ストーブと聞くと、こんな場面を連想する人も多いのではないでしょうか。この記事の筆者である科学ジャーナリスト・三島勇さんも、実際に薪ストーブと出会う前は、そのようなイメージしかもっていなかったそうです。

ところが、薪ストーブを使った冬を3回過ごした今では、その「妄想」は打ち砕かれ、まったく違った印象を抱いているのだとか。

薪ストーブは手強く、奥が深い。扱う人の人間性を試し、忍耐力を要求する。一方で、その暖かさは格別。薪の準備や炉内の掃除、薪の投入など、面倒なことは多々あれど、薪がしっかり燃えてくれると、かけがえのない"相棒"だと感じられるというのです。

興味深いのは、技術開発の進んだ現在の薪ストーブが、「地球温暖化」防止策の1つとして注目を集めているということ。化学燃焼をともなうこのレトロな暖房器具がなぜ、喫緊の課題である「脱炭素」や森林保護に貢献しうるのか。ふしぎに思いませんか?

森林面積が国土の3分の2を占める日本では最近、薪ストーブの使用が増えています。科学ジャーナリストが悪戦苦闘した実体験に基づく「薪ストーブの科学」を、短期集中連載でお届けします。

『ロウソクの科学』に倣って

「燃える」

この言葉を聞いてまず思い出すのは、マイケル・ファラデー(1791〜1867)の『ロウソクの科学』だ。若い世代に向けて、ロウソクを使った実験を交えながら「燃焼」という現象を平易なことばで解説し、最後に一本のロウソクのように、人類の光を発する人になってほしいと語りかける。

【写真】マイケル・ファラデーマイケル・ファラデー photo by gettyimages

私も中学生か高校生の頃に読み、「ファラデー、カッコいいなあ」と思った記憶がある。時が経ち、新聞社で科学記者になってからも、「科学の成果をわかりやすく伝えるにはどうしたらいいか」と迷ったときに、同書のページを繰った。

薪ストーブは燃焼装置だ。「燃焼」ということなら、ファラデーの『ロウソクの科学』(三石巌訳、角川文庫)の力を借りないという選択肢はない。

ロウソクは、蝋(ろう)やパラフィンでつくられる。蝋もパラフィンも炭化水素だ。炭化水素は、炭素と水素からなる有機化合物で、薪ストーブの燃料である薪もまた、この仲間に入る。

ロウソクは、撚糸(ねんし)の芯から炎が立つ。その炎をよく見ると、内側は黒っぽく、周辺は赤く燃えている。蝋が溶けて、表面張力によって芯を上り、燃えつづける。黒っぽい部分には燃焼性の蒸気(ガス)があり、そのまわりの赤い部分では蝋の炭素が分離されて、光りながら空気中に飛び立っている。

ロウソクの周囲に熱によって上昇気流ができるため、炎は伸び上がる。可燃性ガスの水素も発生し、空気中の酸素と結合して水ができる。また、炭素が空気中の酸素と結合し、熱を出しながら二酸化炭素となる。

地上に生えているすべての植物は、空気中から炭素を吸収し、育ち、繁る。私たちがその空気に、二酸化炭素のかたちで炭素を与えている。こうして生き物は、互いに頼り合う構図をつくって生きている。ファラデーはそう指摘したうえで、「すべて造化は、一つの部分が他の部分の善として貢献するという法則によって、結びつけられているのであります」と述べる。

自然はなんと奥深いことか。ファラデーのその思いが、強く伝わってくる。

「燃焼の3要素」

『ロウソクの科学』からは、燃焼には「燃えるもの」と「燃やすもの」が必要であるということが理解できる。もちろん、マッチやライターなどの「着火源」も不可欠だ。これらを合わせて「燃焼の3要素」とよぶ、と高校の化学の教科書に書いてある。

薪ストーブにあてはめれば、「燃えるもの」は薪で、「燃やすもの」は空気中の酸素ということになる。すなわち、質のいい薪があって、空気中の酸素をいかにうまく使うかが、効率的な燃焼のポイントになる。

【写真】効率的な燃焼のポイント効率的な燃焼のポイントの1つは「いかに空気をうまく使うか」 photo by gettyimages

「いかに空気をうまく使うか」というポイントから見ていこう。それは、薪ストーブによる環境問題の解決を目指して模索されてきた。

1974年から薪ストーブのビジネスを始めた長野総商(長野県御代田町)の小林咲月さんによれば、アメリカでは、1980年代に薪ストーブによる大気汚染が深刻化し、環境保護庁(EPA)は1988年、粒子状物質(PM)の排出量規制を開始して、「触媒式」で4.1グラム/時間、「非触媒式」で7.5グラム/時間と定めた。

EPAは、2015年からは一括して4.5グラム/時間以下とし、2020年からは2.0グラム/時間と規制をさらに厳しくしている。欧州にも同様の規制があるが、2022年からはエネルギー消費量の削減を目的として、燃焼効率75%以上、PM40ミリグラム/立方メートル(5グラム/キログラム)となるようだ。

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