生物としての寿命は55歳!長寿になりすぎたヒトを襲うリスクとは

私達が老化しなければならない深い理由
多くの現代人は老化によって死を迎える。なぜ、どのようして私たちの体は老いていくのだろうか。
老化は避けられないものだが、戦後、日本人の寿命は延び続け、現在は80歳を超えている。これは生物学的には「想定外」のことなのだという。一体、どういうことか。
生物学の視点から「私たちが死ななければならない理由」を解説し、新しい死生観を提示する、生物学者・小林武彦氏による現代新書の最新刊『生物はなぜ死ぬのか』から、その一部をお届けする。

「死」は進化によって獲得された

現代人の死に方は、アクシデントで死ぬ、あるいは昆虫や魚のようにプログラムされた寿命できっちり死ぬのとは違い、「老化」の過程で死にます

老化は細胞レベルで起こる不可逆的、つまり後戻りできない「生理現象」で、細胞の機能が徐々に低下し、分裂しなくなり、やがて死に至ります。細胞の機能の低下や異常は、がんをはじめさまざまな病気を引き起こし、表面上はこれらの病気により死ぬ場合が多いのですが、大元の原因は免疫細胞の老化による免疫力の低下や、組織の細胞の機能不全によるものです。

 

それでは、ヒトの寿命を決める「老化」とは一体なんなのでしょうか。この本でこれまでお話ししてきたように、「進化が生き物を作った」という視点に立つと、「死」も進化によって選択されてきたものなのでしょう。

それであれば、死に至る過程である老化にも意味があるのではないでしょうか。そもそも、なぜ老化があるのでしょうか?

なぜ老化があるのか?(photo by iStock)

細胞は約50回分裂すると死ぬ

多細胞生物であるヒトを例に、生まれるところから老化して亡くなるまでを見てみましょう。

多細胞生物も元は1つの細胞(受精卵)から始まります。これが何度も分裂して、細胞の数を増やしていきます。細胞分裂でもっとも重要なイベントは、DNAの複製です。

DNAは生物の遺伝情報である遺伝子の本体、つまり設計図の描かれている「紙」に相当します。そして生き物1つ分の全遺伝情報を「ゲノム」と言います。特に発生の初期段階では、これから体の全てを作っていくわけですから、設計図を正確にコピーしていかないといけません。

細胞分裂を重ねて細胞の数が増えてくると、それぞれの細胞が違う役割を持つようになり、体を形作っていきます。これが細胞の「分化」です。組織そして器官が形成されていく過程で、ざっくり3種類の細胞に分かれます。

1つ目は、組織や器官を構成する細胞(体細胞)です。これが数としては一番多いですが、細胞が分裂するたびに老化して、やがて失われていきます。ヒトの体細胞は約50回分裂すると分裂をやめてしまい、やがて死んでいきます。

そのままだと細胞の数が減ってしまい組織が維持できないので、それらの失われた細胞を供給する「幹細胞」があります。これが2つ目の種類の細胞です。例えば皮膚の幹細胞は表皮の下の真皮に存在し、新しい皮膚の細胞を供給し続けます。

そのため、毎日お風呂に入って体をゴシゴシ洗って垢として古い細胞を取り除いても、腕が細くなったりはしないのです。このような細胞の老化、そして新しい細胞との入れ替えは、赤ちゃんでも起こっています。

最後、3つ目の細胞は、卵や精子を作る生殖系列の細胞です。幹細胞と生殖細胞は生涯生き続けますが、ゆっくりと老化します。

生殖細胞の老化は、受精効率、発生確率を低下させます。幹細胞の老化は新しい細胞の供給が悪くなるので、全身の機能に影響が出ます。歳をとるとケガが治りにくくなったり、感染症にかかりやすくなったり、腎臓、肝臓などの内臓の機能が低下する一因となっています。つまり幹細胞の老化が、個体の老化の主な原因の一つとなっています。

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