2021.04.06
# 政治政策

盛り上がる「ベーシック・インカム」政策、その「大きな落とし穴」に気づいていますか?

コロナ禍で経済的な困窮が目立つなか「ベーシック・インカム」導入に関する議論が盛んになっている。しかし、このラディカルな政策には落とし穴があるのではないか。さらに、じつは「ベーシック・インカム」ではなく「ベーシック・サービス」のほうが効果的に人々を救うことができるのではないか——経済をめぐる一大トピックを、慶應義塾大学教授の井手英策氏、拓殖大学教授の関良基氏、ジャーナリストの佐々木実氏が語った。

ベーシック・サービスの優れた点

佐々木 井手先生に改めてうかがいたいのですが、福祉制度としてベーシック・サービスとベーシック・インカムを比べたとき、そもそもどのような違いがあるのでしょうか。

井手 どちらにも共通して優れているのは「ベーシック」な点。つまり、すべての人に給付するという普遍主義ですね。特定の低所得者層や働けない人にだけ給付する選別主義的な政策には問題があるからです。貧しい人にだけ給付した途端、中・高所得層は負担者になってしまい、社会は分断される。

生活保護が特徴的ですけども、低所得層の中でも給付を受け取れる人と受け取れない人が出てきます。「人を選ぶ」と社会を引き裂く作用が働いてしまうのです。みんなに配れば所得に関係なく全員が受益者になり、救済される人・されない人の区別がなくなる。ですから、「ベーシック」は「社会的な効率性がある」といえます。

そのうえで、ベーシック・インカムとベーシック・サービスには大きな違いがある。もっとも大きな違いは実現性です。

コロナ禍の10万円給付では予算が総額13兆円かかりました。保育園と幼稚園を一年間無償化するために9000億円が必要でしたから、その約15年分です。大学の無償化には2兆〜3兆円必要ですが、これで学生1人当たりの平均学費の100万円をなくすことができる。

〔PHOTO〕iStock
 

じつは13兆円もあれば、ほとんどのベーシック・サービスは無償化できたんですよ。医療費負担が3割から2割になり、大学、介護、障碍者福祉はタダにできた。それだけじゃありません。おまけに、これは現金ですが、失業者に5万円、低所得層に家賃補助で2万円、毎月払うこともできた。ポイントは、サービス給付は現金給付とは比べ物にならないくらい安上がりということ。

どうしてかというと、サービスは必要な人しか使いませんから。幼稚園が無償化されても、佐々木さんが幼稚園に入りなおしたりはしないでしょう。一方、ベーシック・インカムはみんなにまんべんなく配るから巨額にならざるをえない。

かりに生活保護と同水準のベーシック・インカムを給付すると、ひとり月額12万円なので年間144万円。必要な予算は180兆円になります。コロナ前の国家予算の1.8倍もの予算が必要な政策を毎年続けられますか? 予算を抑えようとすれば、ほかの社会保障制度の多くを廃止して現金給付に一本化する、新自由主義的なベーシック・インカムに向かうしかありません。

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