トランプ現象に学ぶ、世界を単純化する「マンガ的思考」の罠

トランプ主義の悪夢【後篇】
川崎 大助 プロフィール

なぜそうしたのか?というと、アメリカ人には(好悪両方の感情から)「金持ちビフ」みたいなキャラクターから目が離せない人が多い、からだ。「お金がとても重要だ」ということを、骨身に染みて知っていてこその、資本主義の本家本元で生きる庶民だからだ。ゆえにお金持ちイコール「社会の強者」として、まず最初に強烈な注目を集めることになる。

だからもしあなたが80年代にタイムスリップしたならば、パート1でドクが言った冗談の「トランプ版」を耳にできるチャンスがあるかもしれない。例のあの「レーガン・ジョーク」だ。

マーティが未来から来たことが信じられない50年代のドクは、彼に質問する。85年の米大統領は誰なのか、と。マーティは「ロナルド・レーガンだよ」と言うほかないのだが、ここでドクは呆れ返ってしまう。「俳優のレーガンだと? ならば副大統領はジェリー・ルイスでジェーン・ワイマンがファースト・レディで……」と続く、あれだ。

50年代のアメリカでは、大根役者だったレーガンが大統領になるなんて、まるでジョークみたいに「信じられない」話だった(ゆえに80年代のレーガン本人は、あのシーンが大好きだったという)。

そして、映画を観ながらこのジョークで笑っていた80年代の人にとっては「あのトランプが大統領になる」というのは、同程度に(いや、もっとか)笑えるアイデアに違いなかっただろう。あり得るわけがない「おかしな話」だったろう。

日本人は「狩られる側」

近年のトランプは、日本で言えば、ビートたけしや松本人志ぐらいの「TVの人気者」だった。『アプレンティス』の番組ホストとして一斉を風靡したからだ。しかしそれ以前から(80年代から)前澤友作と高須克弥を足して10倍にしたぐらいの成金っぷりで、つねにマスメディアを賑わす有名人でもあった。

そして石原慎太郎や橋下徹や河村たかしが「歯切れがいい」と快哉を集める程度には、きっぱりと(なにも考えずに)発言もしていた――この程度のものが、トランプだった。

そんな彼の政権は、同じく日本の比喩で言うと、旧民主党政権のあとで第二次安倍政権が誕生したぐらいの「揺り戻し」によって世にあらわれた。

さらに、左派と右派が街頭で示威行為と衝突を繰り返し、どちらの側にも一見出所不明の資金が流れ込んで「専従」がいるところなども、もしかしたら日本が先取りしていたのかもしれない。実験場だったのかもしれない(ティー・パーティーの先駆けは日本だったのかもしれない)。

安倍晋三前首相(ohoto by gettyimages)

あるいは『進撃の巨人』『鬼滅の刃』といったマンガが次から次へと大ヒットする日本にいる保守派の人こそ、「トランプに熱狂し続ける」アメリカ人の心を、最もすんなりと理解できる素養がある、のかもしれない。

なぜならば通常、剣や日本刀とは男根のメタファーとなるのが普通なのだが、アメリカ人にとっての銃(とくに拳銃)も、ほぼ同じ意味を持つものだからだ。だからもちろん、対話も共存もできない「敵」を殲滅するストーリーが、ことさらに日本で流行する現象に潜む暗い「毒性」について危惧を抱く声も、同国の外では少なくない

ただひとつだけ「彼ら」と日本人が大きく違うところがある。日本人は「狩られる側」だということだ。この悪夢のなかでは、一方的に虐げられる側にしか、日本人の居場所はない。

日本人にとって永遠に実現できない「むなしき夢」こそが「脱亜入欧」であって、その最たるものが白人史上主義者の妄想に同調してみることだった、のかもしれない。日本人は、決して白人になれはしないのに(なる必要など、一切ないのに)。

日本人も「夢から醒める」とき

だから日本人も「夢から醒める」ときなのだ。アメリカ政府の振り付けにしたがって中国を「憎悪」しなければならない必然性は、本来、日本人のなかには一切ない。韓国や北朝鮮と不要に対立するなど、論外だ。

たとえば500年前は地上にアメリカ合衆国などなかったが、そのはるか以前から、中国や朝鮮の文化圏はずっと日本の隣にあった。いまから500年後も、たぶんそうだ(そのころまでアメリカがあるかどうか、誰にもわからないが)。

日本にとって、これほどの深く長い関係を持つ友邦は、ほかにない。だから「中国ウイルス」なんて呼ぶクズに対しては、瞬時に、烈火のごとく怒る権利と義務が日本人にはある。兄弟や肉親が侮蔑されたとき無言でいるのは、卑怯な腰抜けだからだ。人倫にもとるからだ。

まずは自らが、見るべきではない夢から醒めてみること。マンガではない、だからわかりにくく「面白味のない」現実に、真面目に地味に、ひっそりと静かに、しかし実直に対処していくべき時期を、我々は迎えている。

唯一それが、トランプと「同調者たち」が生み出してしまった「妄想の千年帝国」に対抗できる、精神的武装にほかならないのだ。

(了)

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