トランプ戦略司令室(@TrumpWarRoom)の2019年12月11日のツイートより

トランプ現象に学ぶ、世界を単純化する「マンガ的思考」の罠

トランプ主義の悪夢【後篇】
「トランプ現象」を読み解くカギは、トランプ前大統領が駆使した「マンガの構造」にある。日本人も他人事と捉えてはいけない「マンガの構造」が抱える問題とは何か? 作家の川崎大助氏が、前篇に引き続いて、ポップ文化を軸にした社会文化論的側面からトランプ主義を総括する。

前篇:アジア人差別を急増させた、消えることのない「トランプ・ウイルス」

 

世界を「単純化して」見せる

なぜ僕はドナルド.J.トランプを「マンガの王」と呼んだのか。

それは、そもそも彼はコミックブックのヒーロー・ストーリーのように、世界を「単純化して」見せることを得意としていたからだ。プロレスのように、善玉と悪玉が最初から決まっていて、振り付けどおりに「ストーリーらしきもの」をつむいでいく様に、大衆が熱狂するメカニズムを熟知していた、からだ。

世界を単純化して見せることに長けていた(photo by gettyimages)

ここらへんのメカニズム、つまり「プロレスとマンガ」の構造を、いかにしてトランプが「内なるもの」として取り込んでいったのか、といった過程については、以前に以下の記事に書いた。

トランプは、最初から「あのようなトランプ」だったわけじゃない。自らをコミックブックのキャラクターのように、プロレスの(もちろん)悪役のように仕立て上げていって、たんなる有名人からTV番組の人気ホストになり、大統領にまでなったのだ。だから「コミックブックの方法論」で彼に戦いを挑んでも、まず勝てはしない。

つまり、マンガや(マンガの)映画のなかでいかに彼を批判しようが、現実のトランプという存在そのもののほうが、「よりマンガ」なのだから、勝負になるわけがない。『ワンダーウーマン 1984』の残念な結果は、まさにこの構造によって、マンガよりもマンガ的な存在に「跳ね飛ばされてしまった」せいだったと言えよう。

映像をパクった「サノス事件」

さらに、トランプは「アメコミ映画にも詳しい」。記憶に新しいところでは、2019年12月に勃発した「サノス事件」がある。同年4月、マーベル・コミックスの映画シリーズである「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の大作として『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開された。

映画興行史上歴代1位のすさまじいヒットとなった同作において、超強力なヴィランとして君臨していた「宇宙規模の『破壊の王』」であるタイタン人サノスと、スーパーヒーロー(とその仲間たち)の一大決戦が描かれた……のだが、なんと、現役の米大統領であったはずのトランプが、同作の映像をパクって使用した、という大事件がこれだ。

※以下、『エンドゲーム』のネタバレがあります。未見のかたはご注意を。

より正確に言うと「トランプ戦略司令室(Trump War Room)」というチームのツイッター・アカウントが、それをやった。20年の選挙戦のためのキャンペーン動画という位置付けで、『エンドゲーム』の映像のなかからサノスの姿を持ってきて、その顔の部分をトランプに差し替え、投稿したのだ。しかも最後の大決戦シーンの、サノス一世一代の決めゼリフ「I am inevitable」のところで、これをやった。

トランプ戦略司令室のツイート

ここのセリフ、日本では「私は絶対なのだ」と訳されることが多いようだ。

「inevitable」とは「不可避の」とか「必然的な運命」といった意味の言葉だ。だから直訳すると「私を避けることはできない」となる。つまりこの映画では「絶対的な」敵として、ヒーロー軍団の前に立ちはだかる巨悪らしい名セリフ――だったのだが、それをトランプは、再選用の宣伝にちょうどいいと思った、のだろう。トランプの再選は「不可避なのだ」といったようなニュアンスだったのだろう。

しかし、本当に醜悪なのはここからで、映像内のトランプ・サノスは「指パッチン」をやる(※これについての詳細は後述)。すると、トランプの1回目の弾劾を進めていたナンシー・ペロシ下院議長を含む民主党の重鎮たちが「塵のように」消えていく……というものだ。

いくらなんでも「現職の」大統領サイドがやる宣伝行為ではない。正気ではない。

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