アジア人差別を急増させた、消えることのない「トランプ・ウイルス」

トランプ主義の悪夢【前篇】
川崎 大助 プロフィール

増加する「弱者虐待」

おわかりだろうか? いま現在の「差別の嵐」は、このときの――「歴史的事件」だった――チン事件よりも、はるかに醜悪で、危険な暴力的攻撃が、連続して起こっている……という異常事態なのだ。

現在のように「アジア人だというだけで」突然に暴力をふるわれたり、危害を加えられたり、撃たれて殺されたり――というのは、完全におかしい。どうかしている。

 

つまりいま現在、明確な人種主義にのっとって、憎悪を燃料とした、あからさまに苛烈な「弱者虐待」が、アジア人をターゲットとして頻発しているのだ。だから「弱い者(アジア系)のなかでも」より弱そうな者が、まず狙われている。

アジア人の老人、女性などが、次々に襲われている。そして報道を見るかぎりでは、白人層ばかりではなく、黒人もまた「この差別」へと加担している例が少なくない、ようだ。

もちろん、これら全部が「トランプのせい」というのは、語弊があるだろう。しかしこう言えば、ほぼ正確なはずだ。

「トランプのような人物を大統領にまで上り詰めさせてしまった」人々の観念のなかに、ここへとつながる「憎悪の原点」があったのだ、と。「悪意のウイルス」が定着し、増殖していくための受け皿があったのだ、と。

『ワンダーウーマン 1984』の失敗

こうした構造、言うなればトランプ謹製の「悪意のウイルス」の伝播と増殖そのものに対して、正面から戦いを挑もうとしたアメリカ映画がある。パティ・ジェンキンス監督『ワンダーウーマン 1984』(20年12月公開)がそれだ。

DCコミックスの女性スーパーヒーロー、ワンダーウーマンをガル・ガドットが演じ、国際的な大ヒットとなった17年の第1作を引き継ぐ続編映画として、大いに期待されていた。しかし興行収入はさて置いて、批評的には残念な結果となった。

『ワンダーウーマン 1984』予告編

たとえば映画批評サイト〈ロッテン・トマト〉では、批評家の支持率(トマト・メーター)は59%と、前作の93%(つまり「フレッシュ!」のお墨付き)から大きく低下した。観客の満足度スコアも、前作の83%から今作は74%と下落している。

失敗の理由については「脚本に穴が多すぎる」という指摘が多いのだが、なかでも僕は「悪漢役(ヴィラン)をトランプにしたから」うまく行かなかったのではないか、と見ている。

※以下『ワンダーウーマン 1984』のネタバレがあります。未見のかたはご注意を。

「愛される悪役」になり過ぎた

同作の悪漢役はマックスウェル・マックス”・ロードというアメリカ人男性だ。石油会社を経営、ビジネス成功者としてTVCMなどで人気なのだが、実際は経営破綻に瀕していて、追い詰められている。

そんな彼が「願いを叶える石」を手に入れる。そして「どんな願いでも叶えられる」能力を自らに与える。神のごとき存在となったマックスは、衛星放送を通じて、世界中の視聴者にこう告げる。

「望みを叶えてやるから、願いをリクエストしろ」と。そして無数の人々が、ありとあらゆる欲望をむき出しにして、マックスに「リクエスト」しては、次々に「叶って」しまう。そして「悪夢のような」世界が現出しようとする……彼を止められるのは、ワンダーウーマンしかいないのか!?というのが、ストーリーの大枠だ。

マックスというキャラクターについて、監督は一応、トランプだけではなく、元NASDAQ会長にして歴史的詐欺事件の主犯でもあるバーニー・マドフも参考にした、と言っているのだが……まあ、外見は「トランプそのもの」だ。しかもとくに「80年代のトランプ」に酷似していた(本作はタイトルどおり、1984年を舞台としている)。

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