世界中の視線が集まる海域
いま、日本の駿河湾が世界の注目を集めている。
全長が1mを超す巨大な深海魚「ヨコヅナイワシ」が発見された顛末については、以前の記事〈「悪魔のサメ」をしのぐ覇者!「新種」の巨大深海魚が見つかった!〉でご紹介したとおりだ。じつは、ヨコヅナイワシのほかにも、駿河湾では近年、新種の深海魚が相次いで見つかっているのをご存じだろうか?
最大水深が約2500mに達する「日本一深い湾」には、未知の深海魚がさらにひそんでいると専門家はみている。私たちに身近なこの海は、まるで「深海のびっくり箱」のような海域なのだ。
「赤い彗星」を発見!
駿河湾は、静岡県の石廊崎と御前崎を結ぶ線より内側の海域だ。湾口の幅は56km、奥行きは約60kmで、約2300km2の広さがある。

東海大学海洋学部の福井篤教授(魚類学)らの研究グループは、駿河湾北部の水深1450~1570mで未知のクサウオ科魚類を発見し、2017年11月に新種として報告した。この淡いオレンジ色をした深海魚は、駿河湾で採取されたことにちなんで「スルガビクニン」(Careproctus surugaensis)と名づけられた。

研究グループによる新種の深海魚の発見は、これにとどまらない。翌2018年8月には、同じく駿河湾で捕獲されたクサウオ科の深海魚「オナガインキウオ」(Paraliparis ruficometes)を新種として論文報告している。

オナガインキウオは、駿河トラフの水深1430~2070mの3地点から計28個体が採取され、胸びれや尾びれの形状などの特徴から新種と確認された。種小名の「ruficometes」は、ラテン語の「rufus(赤っぽい)」と「cometes(彗星)」を組み合わせたものだ。
快挙はさらに続く。
この「赤い彗星」を報告した翌年の2019年5月、駿河湾で捕獲した深海魚「ミツバインキウオ」(Paraliparis variabilidens)を、新種として発表した。和名の「ミツバ」は、「先端が三つ股に分かれた歯」に由来するという。
さらに、その半年後の2019年11月には、「スルガノオニビ」(Paraliparis hokuto)という新種を報告している。和名の「オニビ」は「鬼火」のことで、「火の玉」のような姿に由来するという。

このように、駿河湾では近年、新種の深海魚が立て続けに発見されているのだ。