物理学者が『エヴァ』を徹底解説! ディラックの海、虚数空間ってなんだ?

リツコ博士…まったく理解できません…
山崎 詩郎 プロフィール

影が本体!? 使徒「レリエル」の“別の”宇宙

『TV版』第16話に登場した第12使徒「レリエル」。白黒にペイントされた巨大な球体が気球のようにプカプカと宙に浮かんだデザインをしていますが、特に攻撃してくる様子もなく人畜無害に見えます。ところが、碇シンジの搭乗するエヴァ初号機は、その球体が地面に落とした“影”に閉じ込められて為す術もなく絶体絶命となります。

実は最強の使徒だったとも噂される「レリエル」……いったい何が起きていたのでしょうか?

作戦本部NERVでの会話に数少ないヒントを見つけることができます。

葛城ミサト「じゃああの影の部分が使徒の本体なわけ?」

赤木リツコ「そう。直径680メートル、厚さ約3ナノメートルのね。その極薄の空間を内向きのATフィールドで支え、内部はディラックの海と呼ばれる虚数空間。多分、別の宇宙につながっているんじゃないかしら

…リツコ博士…何を言っているのか全く理解できません…ということで、このセリフを科学的に可能な範囲でひとつひとつ考察していきましょう。

まず、比較的わかりやすい「厚さ3ナノメートルのね」というセリフから考えてみましょう。ナノメートルというのは10億分の1メートルを表す長さの単位です。ナノという接頭語は、ナノテクという“SF用語”でおなじみの人もいることでしょう。

では、「厚さ3ナノメートル」は実際にどれぐらいの厚さなのでしょうか? なんと、わずか原子10個分程度の厚さ、まさに「極薄」です。この値の選択には制作者の定量的なセンスさえ感じます。

奇しくも『シン・エヴァ』の公開された2021年、半導体プロセスはまさに3ナノメートルプロセスに突入しましたし、量子力学が支配するミクロの世界では超伝導などの影響が広がる範囲が数ナノメートル程度というのはよくあることです。いずれにしても、重要なことはゼロではない厚さが存在するということです。

コンピュータのCPUなどに使われる集積回路は、半導体の表面に微細な回路を形成している Photo by gettyimages

そうすると、「影が本体なわけ?」というセリフも自然に理解できます。そもそも、普通の影とは光を遮ったときにできる暗い領域のことで、それ自体には厚さはなく物質としての実態もありません。

レリエルに厚さがあるということは、影のように見えるだけで、影ではない実態のある何かであることを意味しています。とはいっても、単純に原子10個分の厚さのピザのような物質でできているわけでもなさそうです。

「別の宇宙につながっている」というセリフから予想すると、この影のように見える何かは我々の宇宙と別の宇宙を隔てる厚さ3ナノメートルの境界面のことだと考えてよさそうです。……ひょっとすると、この“別の”宇宙というのは――エヴァでは“別の”宇宙といえば精神戦の舞台と相場は決まっていますが……。

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