2021.04.06
# 政治政策

日本には「ベーシック・インカム」より「ベーシック・サービス」政策が必要かもしれない

井手 英策, 佐々木 実, 関 良基 プロフィール

ベーシック・インカムと福祉制度の廃止

佐々木 そもそもなぜサービス無償化の議論が出てくるかというと、格差問題が深刻化して事実上、人としての基本的な権利を享受できない人がすでにたくさん存在しているからですね。憲法は第25条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定していますが、有名無実化しているといっていいような現状がある。

コロナ危機に加え、デジタル資本主義の進展で将来に仕事が消失するリスクを考えると、事態はより深刻になることが見込まれるから、制度の抜本的な再構築を迫られているわけですね。

ところで、ベーシック・サービスとは対照的な政策にベーシック・インカムがあります。むしろ、コロナ禍で注目されているのはこちらでしょう。ひとり10万円が給付され、実際に「現金給付」を国民的に体験したことも大きい。

話題となる契機は、政策形成に影響力をもつ経済学者の竹中平蔵氏が言及したことです。『エコノミスト』2020年7月21日号のインタビューでは、「月5万円」のベーシック・インカムを提案しています。のちに「月7万円」に修正しますが、より重要なのは財源に関する竹中氏の次の発言です。

「元になるのは(米経済学者)ミルトン・フリードマンの「負の所得税」の考え方だ。一定の所得がある人は税金を払い、それ以下の場合現金を支給する。また、BI(ベーシック・インカム)を導入することで、生活保護が不要となり、年金も要らなくなる。それらを財源とすることで、大きな財政負担なしに制度を作れる」

フリードマン〔PHOTO〕Gettyimages
 

つまり、生活保護や基礎年金などの福祉制度を廃止することが前提なわけです。竹中氏自身がのべているように、新自由主義の教祖的存在ミルトン・フリードマンが提唱した考えに基づいています。重層的な福祉経済制度を解体し、最低所得層への現金給付に一本化していく狙いがあります。

このタイプを「竹中=フリードマン型BI」と呼ぶなら、同様の主張をしている人はほかにもいます。日銀の審議委員も務めたエコノミストの原田泰氏は『ベーシック・インカム』(中公新書・2015年)で竹中氏とほぼ同じ主張をしている。というか、竹中氏が「月5万円」をのちに「月7万円」に改めたのは原田氏の試算にならったからのようです。

言いたいことは、ベーシック・インカムが政策として議論される際、竹中=フリードマン型が有力候補になる可能性が高いということ。福祉制度を簡素化して財政再建に取り組みやすくする狙いもあるのではないでしょうか。

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