身近な出来事から最先端の研究まで、あらゆるジャンルの科学をやさしく解説する好評連載「現役東大生のサイエンス入門」。今回は、この季節多くの人が悩まされている「花粉」にまつわる科学のエピソードを紹介していただきました。
花粉症を持っている方々にとってはつらい季節が続きます。このままでは花粉が嫌いになってしまいそうなので、今日は花粉がきっかけで科学が発達したという話を紹介したいと思います。
およそ200年前の話です。当時のイギリスの植物学者であるロバート・ブラウンは、受粉の機構を解明すべく研究に取り組んでいました。そして1827年のある時、ブラウンは水に浮かべた植物の花粉を顕微鏡で観察していると、花粉から弾け出た微粒子が、ジグザグ状の不規則な動きをしていることを発見しました。
ブラウンは当初、この粒子の動きは花粉の生命力による動きなのではないかと考えたそうです。
ですが、実験を進めていくにつれて花粉以外の葉っぱや茎などの植物の他の部分に傷をつけて観察してみても、やはり不規則に動く微粒子が見られたのです。さらに研究の対象を広げていくと、細かく砕いた化石や鉱物などにもこの動きがみられることが分かりました。
これらの結果から、ブラウンの当初の仮説(ジグザグ運動は生命力による動きである)は誤っていることが分かりましたが、その代わりにどんな物質の微粒子でも水に浮かべると不規則に動くという法則を見つけることができました。
後にこの運動は、ブラウン運動と名付けられました。今では、ブラウン運動は水以外の液体や気体の中でも起こるということが分かっており、高校の化学でも教えられるほどの重要な現象です。
しかしながら、ブラウン運動は科学史上でもっと重要な意味を持っています。それは、原子と分子が本当に存在していることの根拠となったということです。
〔注:ブラウン運動が発見された際に観察されたのは、Clarkia pulchellaという植物の花粉であり、花粉症からよくイメージされるスギ・ヒノキ・ブタクサなどではございません〕