2021.03.29
# ドラマ

『俺の家の話』は、「ドラマのお約束」をひっくり返した傑作だった…!

宮藤官九郎が込めた「メッセージ」
岡室 美奈子 プロフィール

このドラマは最初から寿三郎を死に向かう存在として描いてきた。第8話で寿一は父に向けてビデオメッセージを録画し、第9話で葬儀屋を呼んで寿三郎の葬儀の手はずを整える。

ところがそうしたすべてが、第10話で寿一自身の葬儀のためのものに反転する。寿一のほうが先に死ぬのは、人は誰でも死ぬというシンプルな事実を突きつける。しかし同時に、死は終わりではないという強いメッセージが込められているようにも思われる。これは死を超えてゆくドラマでもあるのだ。

「引退してもまた戻ってくればいい」

私たちはさまざまな二項対立に絡めとられがちだ。善と悪、裕福と貧困、敵と味方、老いと若さ、生と死……。ドラマの多くはそうした二項の対立を軸に描かれる。

その方式に則れば、貧しい出自のさくらは後妻業として財産目当てで寿三郎に近づきまんまと結婚するだろう。ひょっとしたら老いた夫に毒を盛ったりするかもしれない。寿三郎が死ねば、観山家は遺産をめぐって骨肉の争いの修羅場と化すに違いない。そんなドラマを私たちは飽きるほど見てきた。

 

しかし宮藤官九郎の脚本はそんなドラマの定型をことごとく覆す。そしてさまざまな二項対立の境界を越え、私たちの硬直した価値観を攪乱しながら、最終的にすべてを肯定していく。能もプロレスも、家族も家族以外も、老いも若きも、伝統芸能もラップもヒップホップも、そして生と死をも肯定し、私たちすべてに死んでもなお幸福な主人公とその父の結末を見せてくれるのだ。

だから『俺の家の話』は、決して完結していない。寿一は「俺のいない俺の家の話」と言ったけれど、寿一はいつかまた現れるかもしれないのだから。

それは宮藤官九郎から長瀬智也という稀有な俳優へのメッセージでもあるだろう。長州力が言うように「引退してもまた戻ってくればいい」のである。

「長州力」役で出演したプロレスラーの長州力[Photo by gettyimages]

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