2021.03.29
# ドラマ

『俺の家の話』は、「ドラマのお約束」をひっくり返した傑作だった…!

宮藤官九郎が込めた「メッセージ」
岡室 美奈子 プロフィール

そのことは、第9話で寿一が能の「離見の見」を体現していくことに繋がっている。プロレスラーとして能楽師の自分を見つめる寿一と、二度目の引退試合に向かうプロレスラーの自分を見つめる能楽師の寿一。妹の舞や弟の踊介(永山絢斗)、寿限無らが家を放棄して出ていってしまうのに対して、内と外を結ぶ寿一は、「家」=「内」にいながらにして「外部」から見るというハイブリッドな存在となるのである。

奇跡が起きるのは第9話だ。介護施設から抜け出した寿三郎は稽古場で倒れ、危篤状態となる。家族が懸命に話しかけて命を繋ごうとする中、それまでプロレスを続けていることを寿限無以外に隠してきた寿一は、能舞台の揚幕の奥の鏡の間に向かって姿を消し、能面をつける代わりに覆面をかぶってスーパー世阿弥マシーンに変身して現れる。そして死の淵にある寿三郎に向かって、「肝っ玉、しこったま」というさんたまプロレスの掛け声を必死にかけ続ける。

このとき、観山の「家」はプロレス空間と化し、さまざまな境界を超えて血縁者もそうでない者も入り混じって「肝っ玉、しこったま、さんたま」と声を揃えて唱和する祝祭的な瞬間が生まれる。そして奇跡は起こり、寿三郎は生還するのだ。いわば寿一のハイブリッドな身体が境界を破壊したのだと言える。

観山寿三郎役の西田敏行[Photo by gettyimages]
 

実は二項対立を超えていくことは、宮藤官九郎の一貫したテーマである。もっともわかりやすい例は『ごめんね青春!』だろう。同作は、仏教系男子校とカトリック系女子高が合併を目指して合同文化祭を成功させるドラマだ。作中で男/女といった二元論を乗り越えながら、主人公の高校教師・原平助はトラウマとなっている過去の放火事件に向き合い、やがて止まっていた時間が動き出していく。

『俺の家の話』でも、寿一はプロレスを持ち込むことで閉じた家を開きつつ、17歳で家を出てから40歳を過ぎて戻るまでの空白の時間を取り戻していくのだ。

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