「脱炭素」の切り札!? 意外に奥深い「薪ストーブの科学」

レトロな暖房器具がなぜ注目されるのか
三島 勇 プロフィール

「科学」より「芸術」に近い

悩んでいるあいだにも、秋が近づいてきた。

9月になると、朝夕は肌寒く、カーディガンを羽織る。広葉樹の葉も少しずつ色づきはじめている。わが家は主暖房が薪ストーブ、補助暖房に石油ストーブとオイルヒーターだ。薪ストーブに活躍してもらわないと、凍えた生活を送ることになる。

わが黒衣のストーブの販売元であるダッチウエストジャパン社のマニュアルを読むと、必ず「慣らし運転」をして、鋳物の黒衣を徐々に熱に慣れさせる必要があると書いてある。

慣らし運転……!?

何十年も前に聞いた言葉だ。昭和40年代、小学生の頃だった。新車が家に来たとき、家族は、エンジンを暖めるための暖気運転をしたうえで、スピードを上げずに走らせ、総計何百kmか走ってから、通常運転をしていた。大人たちはこれを、「慣らし運転」と言っていた。いまでは新車なら慣らし運転はいらない。遠い昔の話だ。

さらに驚きが続く。

「薪を焚く作業は、科学というよりも芸術に近いと言われています。乾燥した薪を使用し、ストーブの燃焼システムをよく理解することで、薪を焚く技術は簡単に身に付けることができます」

芸術? 自己の内面を凝視し、湧き出る感情を表現する創造行為──。いかにも難しそうだ。だが、この芸術は、自己の内面ではなく燃焼システムをよく理解すれば、どうやら身に付くようだ。安心、安心。

ひとり心の中でツッコミを入れながらも、小心である私はマニュアルに従順だ。

黒衣の箱には、空気の取り入れを調整する装置が3ヵ所ある。本体下部の左右に1ヵ所ずつあり、1つの横棒で同時に開閉をする「エアーコントロールレバー」に、ダイヤル式の「コンバスターエアーダイヤル」、小さなハンドルで回す「バイパスダンパー」が本体左側面にある。前面のフロントドア(耐熱ガラス付き)と左側面のサイドドアも空気の入り口となる。どうやら、空気の調整が薪ストーブ取り扱いのキモのようだ。

【図】ストーブ各部ストーブの操作部

「薪ストーブノート」の誕生

勉強することが多そうだ。昭和の人間にとって、勉強といえばノートが必須アイテムだ。記録をつける「薪ストーブノート」を用意する。

【写真】薪ストーブノート「薪ストーブノート」

そのノートによれば、第1回の慣らし運転は、2018年9月13日午後5時とある。

バイパスダンパーを開けたまま、エアーコントロールレバーを全開にせよ、とマニュアルは教示する。フロントドアを開け、ストーブ炉内中央に着火剤1個を置き、それを囲むように指の幅くらいの薪(細い薪)8本を井桁状に組み上げる。その井桁の上に手首くらいの太さの薪(中薪)4本を載せる。細い薪は端材で代用した。なんだかキャンプのときの焚火と同じだなあと安易な自信が生まれてきた。

ライターで着火剤に火を着ける。キューブ状の着火剤から、煙とともに火が立ち上がる。細い薪に火が移り、パチパチと弾ける音がしはじめた。開けていたフロントドアを閉じ、ガラス窓から燃え具合を観察する。火が炉内の上部にまで大きく、竜のように立ちのぼる。

15分が経ち、炎が安定してきたら、二の腕くらいの太い薪を2本足す。しばらくすると、太い薪にも火が移り、黄色や赤色の大きな炎がゆらめき続ける。薪の表面で踊る炎を見ながら、サイドドアの「ストーブ温度計」をチェックする。

慣らし運転では温度計が200度以上にならないよう注意し、エアーコントロールレバーで給気を調節せよということなので、これに従った。薪は1時間以上燃えていたが、温度計を見ながらレバーを開け閉めしていたら瞬く間に時間は過ぎた。短時間の運転だったが、部屋はけっこう暖かくなった。黒衣のストーブは、主暖房器具としての有能さの片鱗を見せてくれた。

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/