「脱炭素」の切り札!? 意外に奥深い「薪ストーブの科学」

レトロな暖房器具がなぜ注目されるのか
三島 勇 プロフィール

チェーンソーに青ざめる

薪ストーブの扱い方は、ログハウスメーカーの講習会で薪を割ったり、炉内に薪を入れたりしたほかは、入居後、取り扱いの概要の説明を受けただけだった。

標高1000メートルに位置する追分の気温は、東京のそれと比べるとかなり低い。夏はエアコンなしで眠れるが、冬になると氷点下10度を下回ることも珍しくない。マイナス20度になることがあると知り合いに脅かされた。

慌てて冬支度だ。

燃料となる薪を置く薪棚は、労賃のかからない友人らを酒と食事で誘い、3つばかりしつらえた。薪は群馬県の販売会社に頼む。焚きつけ用には、ログハウス建築で残った端材をノコギリで切る。使い慣れないノコギリを使い、手指の皮がむけ、タコができる。ひ弱な肉体の現状を知り、落ち込んだり、やる気を失ったりした。

【写真】薪を置く薪棚薪棚に収めた薪

近くの伐採現場から分けてもらった広葉樹2本分を、チェーンソーで40cmの長さに「玉切り」し、それを斧で割る。これがまた初体験だ。チェーンソーは軽井沢町に隣接する佐久市の農機具販売店で購入したが、店員から「回転数は1分間で1万2000回転。取り扱いには十分気をつけて」と、親切な"忠告"を受け、男がチェーンソーを手に人を襲う映画を思い出して青ざめた。

当初は、ガソリンなどの混合油を使うエンジン式チェーンソーを勧められ、試しに動かしてみたら、爆音ともいえるエンジン音を発し、店員の話し声が聞き取れない。丸太はどんどん切れていくが、音はすさまじく大きく、恐怖と近隣住居への騒音影響を考えて、切断能力は落ちるが、音が小さい電動モーター式を選んだ。

それでも、回転数は1万回を超える。もしもの用心として、チェーンが深く刺さるのを防ぐという防護ズボンと、目に木っ端が入らない専用眼鏡なども一緒に購入した。

ブルース・リーの名言

「玉切り」にした木(以下、「玉切り」という)を割る斧は、講習会で使ったものと同じ製品をアマゾンで購入した。軽くて、素人にも使いやすかった。

講習会では、両足を開き、力を入れずに斧を振りかぶり、斧の重さを利用して玉切りの断面に刃を当てる、と教えられた。初心者かつマニュアル人間である私は、そのとおりに斧を何度も振り下ろす。

刃が玉切りの断面から外れたり、木のフシに弾き返されたり柄が当たったり、と失敗を重ねる。「習うより慣れよ」と言うし、確かブルース・リーが「Don’t think, feel!」と言っていた。

そのとおりだ。無念無想の境地で斧を振り下ろしつづけているうちに、断面の中心に刃を当てることができるようになる。気を抜くとすぐに中心を外れるのだが……。じっとりと汗をかくが、充実感がある。

できた薪は薪棚に積み、1年以上乾燥させる。薪の水分を出さないとよく燃えないからだ。

だが、まわりの住宅の薪棚を見ると、いくつもの棚にぎっしりと薪が詰まっている。

「こんなに薪が必要になるのか」──自他ともに許す「ネガティブ・シンカー」の私は、自宅の薪棚の薪の量と見比べて、果たして冬を乗り切れるのだろうかと不安になる。

薪販売業者によれば、自分でつくる薪だけを燃料として使いつづけるには、いまの3倍の棚が必要なのだという。それだけ薪棚をつくると、狭い庭は薪棚だらけになってしまう。

"薪大臣"の近所の人たちが、イソップ童話「アリとキリギリス」のアリに見える。キリギリスの私は、果たして生き延びられるのか……?

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