2021.03.21
# エンタメ

大ヒット『花束みたいな恋をした』、有村架純のセリフをすべての大人が噛みしめるべき理由

コメカ プロフィール

これも冒頭に触れたことだが、「わたしはやりたくないことしたくない。ちゃんと楽しく生きたいよ」という絹の言葉は、やはり甘っちょろく幼いものではある。やりたくないことをやらずに生きていける人生なんて、事実上ほぼ存在しない。

しかし一方で、「ちゃんと楽しく生きたいよ」という言葉は、実はものすごく真摯な言葉ではないだろうか? 「楽しく生きる」ということにもいろんな在り方や意味がある。そして絹の場合のそれは、「今村夏子さんのピクニック読んでも何も感じない人」にならずに生きていく、という意味なのだ。

事実、絹は就職してからも、麦のようにサブカルチャーに触れることをやめたりはしない。彼女ももちろん日々の労働はつらいはずだが(業務後にコリドー街に出向く同僚にも、いざとなれば付き合っている。単独行動を咎められ嫌われると、仕事に支障がでるからだ)、それでも自分のなかで何かを殺さないようにサブカルチャーに触れ続ける。

麦は絹を「学生気分」であるように見ていたかもしれないが、絹は現状のなかで思考停止せず、「ちゃんと楽しく生きる」ためにはどうしたらよいかを考え続けていたのだ。

 

ギリギリで抵抗したふたり

そしてこの「思考停止しないこと」「考え続けること」といった命題がさらに印象深く表現されるのが、ふたりが別れを迎える終盤のファミリーレストランのシーンである。互いに別れの言葉を胸に秘めてテーブルに座ったはずが、麦はそれに耐えきれず、「別れなくていいと思う。結婚しよ」と口にしてしまう。

「結婚して続いてる人たち、いるでしょ。気持ちが変わってからも、嫌なとこ目つぶりながら暮らしてる人たちいるよ。俺と絹ちゃんだって……」と語る麦に、「またハードル下げるの?」「ハードル下げて、こんなもんなのかなって思いながら暮らして、それでいいの?」と言いつつも、恋愛関係ではなく、結婚し、家族として共に生きていくのなら、それでもやっていけるのかもしれない、と絹は揺れる。

しかしそこで、偶然近くの席にいた若いカップルの会話が聞こえてくる。かつての絹と麦を思い起こさせるそのカップルは、互いの好きなサブカルチャーの話を持ち寄り、そして、離れて過ごしている時間にも、ずっとあなたのことを考えていたと語り合うのだ。ふたりはそのカップルを見ているうちに感極まり、泣きながら抱き合って、そして別れる。

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