2021.03.21
# エンタメ

大ヒット『花束みたいな恋をした』、有村架純のセリフをすべての大人が噛みしめるべき理由

コメカ プロフィール

「人生って責任だよ」

しかし作品中盤、麦が自身の夢であったイラストレーター一本での自活を諦め、就職を決意するところから、物語は転調する。生活を経済的に成立させるため勤め人になった麦は、恐らくは元々少なからず抱えていただろうマッチョイズム(男っぽさを誇示すること。父親との関係性やカルチャー系の男友達たちとの付き合い方の描写に、それが垣間見える)を少しずつ剥き出しにしていくことになる。

「このままずっとこういう感じが続くのかなって思ってた」、つまり好きなものを持ち寄ったモラトリアムの時間を続けることを願っていた絹をよそに、麦は「働く男」というアイデンティティを内面化するようになり、絹の母に会った際に言われた言葉の受け売りで、「人生って責任だよ」と会社の後輩に呟いたりする(そして、「へー、大変っすね」と軽くいなされたことに憤る)。

 

冒頭、私が言及した「わたしはやりたくないことしたくない。ちゃんと楽しく生きたいよ」という絹の言葉は、こうしたふたりのすれ違いの果てに、彼女が歯科医院事務の仕事を辞め、イベント会社に転職しようとしていることを麦に話した際に発せられたものだ。

すでに絹に対して「いつまで学生気分でいるんだろ」と内心思うようになってしまっていた麦は、「仕事は遊びじゃないよ。そんないい加減なとこ入って、上手く行かなかったらどうするの?」「好きなこと活かせるとか、そういうのは人生舐めてるって考えちゃう」と、自分の父親(「お前も長岡の人間だったら花火のこと以外は考えるな」)や絹の母親(「社会に出るってことはお風呂と一緒なの。入る前は面倒臭いけど、入ってみたら入って良かったなって思うの」)とほとんど同じ価値観の言葉を口にしてしまう。

麦や絹の親が言っているのは「考えるな」「入ってみたら良かったなと思うようになる」、つまりとにかく思考停止して共同体の成員になればいいんだ、という世界観である。サブカルチャーに触れることで自分なりに何かをキャッチし感じようとしていたはずの麦は、いつの間にか既成システムの論理に絡めとられ、思考停止してしまっていたのだ。

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