2021.03.21
# エンタメ

大ヒット『花束みたいな恋をした』、有村架純のセリフをすべての大人が噛みしめるべき理由

コメカ プロフィール

マウンティング競争をしないふたり

この映画の主人公である絹(有村架純)と麦(菅田将暉)は、学生時代に偶然に共にしたカフェの席で、店内に映画監督の押井守がいることに気づく。同席していた他の人間は押井を知らず、自分たちだけが彼に気づいたことをきっかけに、絹と麦は互いのサブカルチャー趣味が驚くほど似通っていることを知る。まるで精神的な双子であるかのような相似性に感銘を受けたふたりは恋愛関係になり、多摩川の近くに部屋を借り、同棲生活を始める…というのが、本作前半のプロットである。

 

きっかけとなった押井守を始めとして、天竺鼠、今村夏子「ピクニック」、市川春子『宝石の国』、きのこ帝国「クロノスタシス」など、ふたりが共有するさまざまな文化表現が作品内で明示される。

ここで注意すべきなのは、世間的には若干マイナーなサブカルチャーを嗜好する人間たちがやりがちないわゆる「卓越化競争」が、本作においてはほぼ描かれない点である。卓越化競争とはつまり「自分のほうがより文化に詳しい」「自分はこんな経験だってしている」というようなマウンティング合戦であり、サブカルチャーを自意識の柱にしている人間は往々にしてこういうカマシ合いに走りがちだ。

しかし絹と麦はふたりの間においても、文化系の友人たちとの間においても、こういったコミュニケーションをほとんど行わない。彼らは嬉しそうに、幸せそうに、好きなものを共有できる喜びを分かち合う。

恐らく絹と麦にとってサブカルチャーは自分たちを護る繭のようなもので、それを愛する者は競争相手ではなく、仲間であり同志なのだ。大好きなもので埋め尽くされた多摩川沿いの部屋は、社会から距離を置いたふたりの「籠(こも)り」の場所であるかのように映る。

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