2021年3月2日に決定した吉川英治文学新人賞は、加藤シゲアキさんの『オルタネート』と武田綾乃さんの『愛されなくても別に』のW受賞となった。武田さんは『その日、朱音は空を飛んだ』に続き二度目のノミネートでの受賞だ。2011年、31歳のときに『ツナグ』で吉川英治文学新人賞を受賞後、2012年に『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞した「先輩」辻村深月さんは、まだ受賞発表前の武田さんにどうしても伝えたいことがあったのだという。吉川英治文学新人賞受賞を記念し、発表前に実施、「小説現代」に掲載された対談から抜粋してご紹介する。

構成/吉田大助

撮影/森清
つじむら・みづき(写真左)
1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞を受賞。2018年には『かがみの孤城』が第15回本屋大賞で1位に選ばれた。著書に『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『島はぼくらと』『盲目的な恋と友情』『朝が来る』『東京會舘とわたし』『青空と逃げる』『傲慢と善良』など多数。『ツナグ』など映像化されている作品も多く、『朝が来る』は河瀬直美監督(瀬の右側は本来は刀に貝)により2020年公開で映画化された。
たけだ・あやの(写真右)
1992年京都府生れ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞最終候補作に選ばれた『今日、きみと息をする。』で作家デビュー。同年刊行した『響け! ユーフォニアム』はテレビアニメ化され人気を博し、続編多数。その他の作品に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『どうぞ愛をお叫びください』『君と漕ぐ』シリーズなどがある。『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。
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吉川英治文学新人賞ノミネート、でも「焦らないで」

辻村 武田さんの『その日、朱音は空を飛んだ』が吉川英治文学新人賞にノミネートされた時に、私が『凍りのくじら』で初めて吉川新人賞にノミネートされた時のことをふと思い出したんです。ノミネートされた時の年齢も近かったと思うから、きっと驚いたり悩んだり、焦ったりされているんじゃないかなって……。ご本人に「焦らなくていいよ」とお伝えしたいなって、ずっと思っていました。

武田 ありがとうございます!

辻村 極端な話、次の小説が書けなくなるかもしれないし、書き始めても完結するかどうかなんてわからないのに、「焦らなくていいよ」なんて言われても……と、まぁ思うんですよね。私も先輩に昔同じことを言ってもらった時、そう思いましたから(笑)。でも、本当にそうなんです。だから今日は「楽しんでください」って言おうと思って来たんです。

辻村深月氏 撮影/森清 

武田 焦らないこと。楽しむこと。

辻村 はい。でも、武田さんはきっと大丈夫、書き続けていける人だろうなと思うのは、既に一本、シリーズものを完結されていらっしゃるんでよすね。しかも「響け! ユーフォニアム」(2013年12月〜2019年6月にかけて全12巻刊行された、高校の吹奏楽部を舞台にしたシリーズ)という大作を。デビューしてすぐに作品がアニメ化されて、たくさんのファンがついてってなると、私だったら周りの意見に流されたり、立ち位置を見失ったりしていた自信があります(笑)。でも、完結された時のインタビューを、今日の対談のためにというわけではなく以前読んだことがあって。武田さんが、何よりもまず登場人物一人一人の幸せであるとか、彼女たちがもがいて出した結論とか正解というものに、なんとかして辿り着かせたいという気持ちでシリーズを書き継がれていたことが伝わってきて、めちゃくちゃグッときたんです。

武田 嬉しい……。

辻村 それができる人なら、ヘンに自分の立場とか状況に左右されずに、書き続けていけると思います。

武田 私は新人賞の「隠し玉作品」という特別枠でデビューさせていただいて、二作目の『響け! ユーフォニアム』を京都アニメーションさんがなぜか気に入ってくださってアニメ化されて、という運だけが超絶いい作家生活を送ってきたんですけど……。

辻村 そんなふうに思ってるんだ(笑)。

武田 本当にそうなんですよ。アニメ化のおかげもあってファンレターもたくさんいただいたりして、読者さんが自分の新作を待ってくれている、という感覚を持てた経験から、小説を書き続けていくうえで大事なものをもらったと思うんです。