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「三体問題」はなぜ難しいのか? 一体問題、二体問題との本質的な違いとは

絡まり合った方程式

SF小説の題材として扱われ一躍有名になった「三体問題」。簡単に言ってしまえば「天体が3つある場合、それらの天体の運動はどうなるのか?」というものですが、なぜこれが重要な問題なのでしょうか? 「一体問題」や「二体問題」はどうなのか? 天体力学の専門家である弘前大学の浅田秀樹さんに解説していただきました。

(この記事はブルーバックス『三体問題』の内容を再構成したものです)

目的地にたどり着けるかどうかは、手段に依存する

明治時代、日本から米国への移動手段は何週間もかかる船旅しかありませんでした。
20世紀になると飛行機が登場して、今では出発したその日のうちに、日本から米国に移動することが可能になっています。その飛行機を用いても、人類は月までは行けません。しかし、人類はロケットを開発し、月に到達できるようになりました。

このように、手段を変えれば、到達できる範囲も変わってきます。同様に、数学の世界でも許される数学的操作への制限・条件を変更すれば、その数学理論が適用できる範囲も変わってくるのです。その結果として、ある問題が解けるか解けないかということが、前提とする数学的条件や手法に依存することがあります。

「三体問題」を考えるうえでも、ある方程式が「解ける」あるいは「解けない」ということを論じるさいには、その解を得るための手段——例えば代数的な操作に限る―—をはっきりとさせる必要があるのです。

「一体問題」と「二体問題」

宇宙に1つだけ天体が存在するという、極度に理想化した場面を想像してみましょう。他の天体が何も存在しない状況でどうやって1個だけ天体が形成されたのか、という天体物理学的な視点からのツッコミはなしとします。

万有引力は2つの物体の質量に比例します。しかし、他の天体が存在しない場合は2個目の物体の質量はゼロとなり、万有引力は働きません。

運動の第1法則により、その唯一の天体に力が働かないため、その天体の運動は静止するか等速直線運動をするかの2通りしかありません。こうして、方程式を解くという数学的操作をすることなく、一体問題はあっという間に解決してしまいます。

次に、2つの天体を考えます。3個目の天体は存在しないものと仮定してください。これはニュートンが万有引力を導き出すさいに用いた状況です。よってケプラーの法則に帰着します。楕円軌道が二体問題の答えです。

ただし、数学的には他の解も存在します。

ニュートンが楕円軌道を求めたときには、2つの天体の間の距離が有限であることが暗に仮定されています。このことは、観測される惑星が遠方に飛び去ることがないため妥当な仮定だといえます。

この仮定はゆるめることができます。その距離が無限大になってもよいとすれば、二体問題の解として、放物線あるいは双曲線の軌道が可能となります。これは粒子が散乱される様子と似ているため、「散乱軌道」とよばれることがあります。

さらに3種類目の解も存在します。それは、2つの天体がある直線上を移動して衝突してしまう、いわゆる「衝突解」とよばれるものです。ただし、実際の天体どうしが直線運動して衝突する現象は見られません。そのため、この3種類目の解は、純粋に数学的な解だと見なされています。また、この衝突解を逆再生したような亜種の解も存在します。

三体問題

ニュートンの万有引力の理論は、惑星の運動を完全に説明するという素晴らしい成果をもたらしました。その結果、その万有引力の理論は当時の科学者を魅了します。

しかし、その具体的な計算は天体が2個の場合に限られていました。

天体が3つある場合が次の問題として直ちに認識されます。

質量が各々M1、M2、M3という三つの天体を考えましょう。ここで天体に番号を1、2、3と付けます。

万有引力は2つの質量の積の形で表されます。2個の天体の組み合わせが3通りあるのに対応して、万有引力を表す数式が3本登場します。

力の形が分かったので、運動の第2法則にそれを代入して各天体の質量で割れば、3つの天体それぞれの加速度の式が得られます。

例えば、天体1の加速度(a1)イコールの式の右辺には、天体1と2の間の万有引力、および天体1と3の間の万有引力という2つの項が存在するのです。

天体1に対する元の運動方程式をその天体の質量M1で割って、加速度イコールの形にしています。結果としての数式、つまり天体1の加速度イコールの式からは、その天体1の質量M1は消え去ります。そこに残る質量は天体1以外の質量M2とM3のみです。残りの天体2、3の加速度イコールの方程式についても同様です。

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