バイデン政権でどうなる中東? 池上彰と元アラビスト外交官が深堀り解説!

池上彰×中川浩一(後編)
池上彰×中川浩一

中川 エジプトでは、2012年、自由で民主的な選挙を行ったら、過激派の「ムスリム同胞団」の政権が誕生しました。当時のオバマ政権は、民主主義の支援を掲げていたので、選挙で選ばれた政権を支持しないといけない。なので「ムスリム同胞団」を支持せざるを得ないという、「ジレンマ」に陥ってしまったんです。バイデン政権も、これから中東各国で行われる選挙で、同様のジレンマに直面する可能性があります。

 

私は、「アラブの春」の直後、エジプトで勤務していたんですけど、民主化した結果、治安は大荒れでした。でも、今のエルシーシ大統領が2014年に選出されてからは、強権で抑え込んで安定しました。エジプトは、「アラブの春」から10年が経って、言論弾圧は相当厳しくなりましたが、現在、治安は安定しています。

池上 そうなんですよね。民主化とは反対の強権政治で、治安が良くなった。庶民は、そのほうが経済は安定するので、生活のことを考えると、まあいいやとなるわけですよ。イラクも、イラク戦争後は民主化を尊重するあまり、アラブ民族のシーア派とスンニ派、クルド民族が対立し、内戦状態になりました。

中川 今年5月には、パレスチナで(国会にあたる)自治評議会選挙がありますが、前回の15年前には、過激派のハマスが勝利しています。

池上 注目ですね。パレスチナって、ヨルダン川西岸とガザに分かれていて、ヨルダン川西岸は穏健派のファタハが、ガザは過激派のハマスが支配している。数年前にガザに入ってみたら、ハマス以外にもずいぶんいろんな過激派がいました。パレスチナ自治政府の中でも、ファタハって穏健だけど、腐敗しているんですよ、ハマスは過激なんだけど、清潔なんです。どっちもどっちなんですが、庶民レベルでいうと、ハマスは福祉活動や身の周りのことをやってくれるから支持されるんです。一方で、イスラエルに対してテロをやったりする。

池上彰氏(左)、中川浩一氏(右)

中川 ハマスは、イスラエル撲滅を掲げて誕生した組織なので、イスラエルへのテロを止めることは、組織の否定になってしまう。そこは難しいところですね。

池上 アメリカもファタハはいいけど、テロ組織のハマスは許せない。だからファタハにいろいろ支援するんだけど、ファタハはその支援を幹部がポケットに入れてしまう。要するに、自民党の中にいろいろ派閥があるように、パレスチナ自治政府にも派閥があるんですね。アラファト議長はファタハのトップだったわけです。

中川 パレスチナが分裂していることが、イスラエルとか一部の国際社会にとっては、パレスチナ問題が進まないのは「交渉相手がいないからだ」という言い訳になっている面もあります。

池上 そもそもハマスは、ファタハの力を弱めるために、イスラエルが対抗馬として育てた組織なんです。そうしたら、ハマスは、育ての親に刃向う「鬼っ子」になっちゃった。中東は本当に複雑怪奇です。でも、それを含めて、やはり魅力的で面白いところですね。

(了)

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