漫画/伊藤理佐 文/FRaUweb

音楽は「思い出」をよみがえらせる

3月11日、TBSで放送された「音楽の日」にはそうそうたるアーティストたちが集結した。ミスチルとMISIAの新曲も目玉のひとつだったが、なによりも楽天生命パーク宮城で実現したファンキーモンキーベイビーズの一夜限りの再結成は、涙なくして見られなかった人が多かったのではないか。2013年の田中将大投手のあの「最後の一球」、みんなで空につきあげた人差し指。DJケミカルのパフォーマンスとファンキー加藤&モン吉の歌声は、震災後の楽天初優勝を彷彿とさせ、被災地の10年に思いを馳せ、胸熱くさせる素晴らしいものだった。

そんな中、「震災」からちょっと一呼吸おいて、自身の切ない恋の思い出が心に広がってきたのが、岸谷香さんが歌ったプリンセスプリンセスの「M」だったのではないだろうか。

そう、思い出と音楽は密接な関係にある。そして、恋も。
ドライブで一緒に聞いた曲、一緒に行ったライブでハマった曲、カラオケで歌ってもらった曲……さまざまな「思い出の曲」があるだろう。

しかし、「いわゆる音楽」とすこしずれた「曲」も、意外な思い出をよみがえらせる。

「家電の音」「家電の曲」

♪タララン、タララン、タララランラーン、タララン、タララランランラーン

「お風呂が沸きました」

ノーリツの給湯器のこの音楽、オースティンの「人形の夢と目覚め」という曲だが、もはや正式名称よりも「お風呂が沸きましたの曲」として認識している人の方が多いのではないだろう。

出典/ノーリツ公式YouTubeチャンネル

それ以外にも、「家電の音」として、音楽が鳴ってくると脳が反応してしまう音があることは多いはずだ。「あ、ご飯炊けたな」「ポットのお湯沸いたな」「パン焼けた!」「洗濯終わったねー」etc…。もはや「家電の音」は生活に密着し、脳に刷り込まれている。それは「音」なのだけれど「曲」でもあって、「ちっぽけな勇気」であの日の楽天を思い出すように、「M」で切ない恋を思い出すように、よみがえる風景がある人もいるだろう。

すでに結婚して子どもも生まれた女性が、新しく変えた家電の音で「切ない過去」を思い出してしまう物語が、伊藤理佐さんのマンガ『おいおいピータン!!』2巻23話の「家電の呪い」である。

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奥さんの呪い?

結婚して子どもが生まれ、復職して忙しいときに洗濯機が壊れる。即購入しないと保育園の洗い物も間に合わない! 慌てて購入した洗濯機をいざ使い、洗濯が終わったとき、主人公は戦慄する。

「これ、前の男の家の洗濯機の音だ……」

残念ながら、購入前にその「男」の洗濯機のメーカーは知らなかった。なぜなら、彼がよく脱衣所でこそこそ電話をしてきていたから。そう、その男とは不倫関係にあり、電話口からだけ「洗濯が終わった音」を聞いていたのである。
電話の向こうには確実に「男の生活」があることをまざまざと感じさせる「音」であり「曲」だった……。

「今さらオクサンに責められているような…呪われているような…」

(c)伊藤理佐/講談社『おいおいピータン!!』2巻

自分がしてしまったことの罪をわかっているからこそ、この「曲」は主人公の胸に突き刺さる。そして炊飯器など、他の「男の家電の音」の切ない思い出もよみがえってくる。しかし最後に、主人公はその音を聞いて「呪い」と感じていた本当の理由を自覚するのだ。呪いなんかじゃなかった……。「曲の、音の思い出」はときに現実と向き合わせるのだ。

おいおいピータン!!』2巻の発売を記念した無料試し読みで、ぜひ主人公が向き合った現実が何だったのかを確認していただきたい。

おいおいピータン!!』は『おいピータン!!』から数えると20年以上続く伊藤理佐さんのオムニバスショート。「恋」と「食」を中心に描かれているが、これだけ長く続く理由は、主人公の心にこの体験が刺さったように、多くの人に刺さる「あるある」が浮かび上がってくるからなのだなと改めて感じる。
さあ、あなたは「家電の曲」に自身のどんな経験を思い出すだろうか。