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西川善文が行員たちに言っていた「状況が悪いと逃げるバンカーは下の下」

西川善文『仕事と人生』(6)
2020年9月に逝去した三井住友銀行元頭取・日本郵政元社長の西川善文氏は、2013年から翌年にかけ、記者と編集者を相手におおいに語ったことがある。仕事とはどのようにするべきなのか、どんな人が成果をあげるのか。語られたことは、長年、大組織の中で人に揉まれ、人を観察し、お客と相対し、トップとして人を率いた経験と、持って生まれた眼力によって培われた、西川善文ならではの奥深いものだった。死去から半年経った3月に、それを一冊の本『仕事と人生』として刊行することになった。「ラストバンカーの遺言」というべき本書から、どんな時代も変わらぬ仕事術を、数回にわたりご紹介したい。

悪い状況から脱却するお手伝いがバンカーの仕事

景気も業界の動向もよく、取引先の会社の業績が好調であれば、こんなにいいことはない。銀行からすれば預金額も増えるし、融資も安心してできる。

では、反対に、景気と業界の動向が低迷し、取引先の業績が悪くなったとき、どのような対応をすればいいか。テレビドラマで「銀行につなぎ融資をしてもらっていれば、うちは倒産しないで済んだ」と倒産した会社の経営者が語るシーンが出てきた。厳しい状態の会社から銀行は手を引くと一般的に見られているのだろう。しかし、決してそうではないし、そうであってはならないと私は思う。

「悪い状況を脱却するために、どういうお手伝いをするか」をよく考え、提案をしていくことが、本来、バンカーのやるべき仕事である。したがって、状況が悪いからといって逃げるバンカーは下の下だ。「これはやめておこう」ではなく、あえていろいろな提案をして助ける努力をするところにバンカーとしての価値が問われる。特に、苦境にあっても事業としては悪くなく、打開策を講ずれば浮上すると思われる場合は、銀行としての考え方、ものの見方で打開策をまとめ、お客さまに提案すべきである。

 

その際、的確な提案をするには相当勉強しなければならないから、これは簡単な仕事ではない。しかし、提案内容はともかく、本当に親身に考えることはお客さまに対するアピールにもなり、好感を持たれる。そして、その会社が立ち直ることができれば、お客さまとの信頼関係が一層強まり、取引関係が強固になる。言い方は悪いけれども、相手のピンチはこちらのチャンスなのである。

残念ながら、悪い状態になると、そのお客さまに見向きもしないバンカーは少なくない。調子のいいときは足繁く通って親密な関係を築いたのに、調子が悪くなったらぱったりと行かなくなり、取引も抑え始めたら、相手はどう思うか。間違いなく不信感を抱く。その会社が逆境を脱して成長軌道に乗ったときに「資金が必要でしょう。融資しますよ」と提案しても、「そうですね。ありがとうございます」と簡単に受け入れてはくれないだろう。けんもほろろという態度は取らないにしても、かなり厳しい条件をつけるに違いないし、その後の付き合いも寒々しいものになるはずだ。

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