大学教授の僕が、12歳の息子に「自分みたいな大人になるな」と話す理由

目の前の幸せを、大事にしてほしい
井手 英策 プロフィール

長男に問いかける。お前たちは親を選べない。なのに、貧しい家に生まれたというだけで大学や病院に行けない子どもがいる。そんな社会は「公正」なのか。生まれたときに障がいがあったというそれだけの理由で、色んなことをあきらめなければいけない社会が「公正」か。女の人として生まれたというだけで、出産を理由に仕事をやめなければいけない社会は「公正」だと言えるか…そして聞く、自分がその当事者だったら、しかたないですませられるのか。

社会から「公正さ」が失われていることへの気づきは、「理不尽さ」への怒りにつながるかもしれない。ステファン・エセルは著書『怒れ!憤れ!』のなかで、「怒り」は人間の大切な感情のひとつだと言った。僕はそれを親として教えたい。

フランスの外交官で、『怒れ!憤れ!』の著者ステファン・エセル[Photo by gettyimages]
 

「いまの幸せ」を大事にできる社会へ

もうひとつある。この社会のありかたを、自分自身が考えつづけることだ。日本は生活保障が弱い国だ。失業保険の給付対象者は少なく、他の先進国では当たり前の家賃補助制度も存在しない。さらに、大学を中心とした高等教育の負担は大きく、医療や介護が自己負担であるゆえに、老後の暮らしも安心できない。

生活の安心が保障されない国であるかぎり、僕たちは、子どもたちを永遠に受験戦争に巻きこみ、競争を強いるしかない。競争して切磋琢磨することは大事だが、競争を強いる社会は、自由を否定する社会と紙一重だ。自己責任で生きていけない人たちを見下すような社会は、必ず、自分の子どもに大きな負荷となって跳ねかえってくる。

この社会をどう変えるか。それは政治の力であり、そうしたビジョンを示す政党を見極め、僕たちの大切な1票を投じていくべきだ。政治を罵るだけでは何も変わらない。さまざまな政策の束を見つめ、比べ、選びとる僕たちの能力が問われている。

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