大学教授の僕が、12歳の息子に「自分みたいな大人になるな」と話す理由

目の前の幸せを、大事にしてほしい
井手 英策 プロフィール

脳の出血が止まるかどうかで人生が決まる。止まらなければ、死ぬか、大きな障がいが残るかだ。死ねればいい。住宅ローンは消え、生命保険がでる。だが、生き延びても、働けなくなったらどうか。家を手放し、子どもの進学をあきらめなければならないだろう。僕は病院の布団をかぶって泣いた。

高収入のカップルがいるとする。だけど、もし片方がたおれて仕事ができなくなれば、住宅ローンや子どもの教育費はどうなるだろう。ここでも話は同じだ。いっそ死んだほうが、家族の暮らしは確実に安定する。

親が生き延びると家族を苦しめる社会なんて、どう考えてもまちがっている。この恐怖はすべての人に訪れうる。僕は運よく助かった。でも、運が悪ければ、すべてを失くしていたことを僕は身にしみて知っている。

正社員への道は狭く険しい。おまけに運が悪ければ人生を棒に振る。そんな不安定な社会に人生を賭け、未来の幸せのためにいまを我慢しろ、と言わねばならない。仮に正社員になれても、成長は行きづまり、奪い合いが必定だとわかっているのに、貧しくなるよりましだから頑張れと励まさなければならない。いったい、僕はどんな顔をして、子どもたちに「社会」を語ればよいのだろうか。

 

不安と息苦しさに覆われている

運がよければそれでいい。でも、悪ければ、どんなにキャリアを積んでも、ちょっとしたきっかけで奈落の底に突き落とされる。貧しい人に無関心で冷淡な社会は、いつ、自分や子どもたちに牙をむくかわからない。

それなのに、だ。この社会からは、「貧困」への想像力がどんどん失われつつある。実際に、さまざまな国際統計を見てみると、格差の存在を認め、その是正を求める国民の声は、他の国よりも明らかに弱い。

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