なぜ日本は壊れていったのか…「ロッキード・リクルート事件」の真相

【特別対談】真山仁×大西康之(後編)
現代ビジネス編集部

大西 そもそも角栄がロッキードから5億円をもらう理由についても、腑に落ちない点があります。

真山 そうなんです。元毎日新聞の政治記者、西山太吉さんは「5億円なんちゅうのは角栄にとっては、はした金だ」と言っていました。また角栄にほれ込んだ通産官僚の小長啓一さんも「5億円のようなはした金を、外国人からもらうなんてありえない、と田中さんが繰り返していた」と言うのです。

庶民から見れば大金ですが、西山さんが担当していた宏池会(現在の麻生派や岸田派の源流)では財界への電話一本で億単位のカネを集金したという当時の政治背景を考えれば、この程度の献金は当たり前でした。つまり5億円は丸紅からの単なる献金で、ロッキードからの賄賂ではなかったという見方は充分に成立します。

検察の起訴状によれば丸紅からの金銭授受は、英国大使館裏の路上やホテルオークラの駐車場などで白昼堂々と行われています。やましいカネなら料亭でこっそりやるはずなのに。検察が主張したカネを運んだルートも実際に現場検証をしましたが、不可解なことだらけでした。

『ロッキード』著者の真山仁氏
 

大西 角栄にはロッキードの要請に応じて、トライスターを全日空に導入させて、その見返りに5億円をもらうという動機そのものが見当たらないわけですね。

リクルート事件でも上場を目前としていたリクルートコスモスの未公開株を政治家や経営者に配ったと言っても、株を買ってもらったわけです。未公開株を買った人たちは、上場後に株が上がれば儲かりますが、下がって損をするリスクも負っているわけです。社会的信用力のある政治家や財界人に未公開株を引き受けてもらうということは、経済界の常識でしたし、上場を担当する証券会社では当たり前のように行われてきたこと。しかも江副は政財界の全方位的に配っていて、特定の誰かに便宜を図ってもらおうとする意図があったようには見えません。

当時はバブル経済の真っ盛り。リクルートは川崎の再開発地にビルを建てました。そのときリクルートの交渉相手だった川崎市の副市長が、リクルートコスモスの未公開株を同じリクルートのノンバンクからおカネを融資してもらって買い、上場後すぐに値上がりしたその株を売って売却益一億円を得た。それを報じた朝日新聞のスクープ記事によって、リクルート追及報道に火がついたのですが、この川崎市のケースは、警察も検察も、立件できないとして見送っていたんです。

ところが朝日新聞はこの報道を皮切りに、森喜朗をはじめとして、安倍晋太郎、竹下登、中曽根康弘らが未公開株を貰ったことを次々と暴いていった。特別な地位にいるだけで、「ぬれ手でアワ」でおカネを手にした政財官の要人たちへの怒りが燎原の火のように広がりました。その世論をフォローの風にして、東京地検は江副を逮捕、取り調べをしますが、そもそも贈収賄の見立てには無理がある。

検察のシナリオに沿った罪の自白をするまで土下座を強要したり、長時間壁に向かって立たせたりする戦前の特高まがいの取り調べや不当な長期に及ぶ勾留は、その後問題視されますが、当時は検察のやりたい放題。

頭に浮かんだのは、つかこうへいさんの小説「熱海殺人事件」です。ショボい事件を大犯罪に仕立てていくために犯人に自白を強要していく物語ですが、主人公の部長刑事は「凶器は浴衣の腰ひもです」と供述する犯人に「そんなショボい凶器で、国民が納得するか」と事件を脚色していく。これはフィクションのなかだけの話だと思っていたら、現実でも同じでした。

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