Photo by iStock

西川善文が晩年に語っていた、仕事ができる人ほど避けないといけない落とし穴

西川善文『仕事と人生』(5)
2020年9月に逝去した三井住友銀行元頭取・日本郵政元社長の西川善文氏は、2013年から翌年にかけ、記者と編集者を相手におおいに語ったことがある。仕事とはどのようにするべきなのか、どんな人が成果をあげるのか。語られたことは、長年、大組織の中で人に揉まれ、人を観察し、お客と相対し、トップとして人を率いた経験と、持って生まれた眼力によって培われた、西川善文ならではの奥深いものだった。死去から半年経った3月に、それを一冊の本『仕事と人生』として刊行することになった。「ラストバンカーの遺言」というべき本書から、どんな時代も変わらぬ仕事術を、数回にわたりご紹介したい。今回は仕事ができる人の要件について。

行動しないようでは失格

「仕事ができる」と言われるのはどういう人か。このような質問を受けると、私は「頭がよくて誠実な人」と答えてきた。ただし、そこに行動が伴わなければならない。いくら頭がよくて誠実でも、行動しないようではビジネスパーソンとして失格である。

直接の部下ではなかったが、二〇〇六(平成一八)年に五五歳で亡くなった宿澤広朗(しゅくざわ・ひろあき)さんは仕事のできる男だった。彼は一九七三(昭和四八)年に住友銀行へ入行した。早稲田大学ではラグビー部に所属し、ラグビーの日本代表に選ばれた一流のラガーマンである。「大学時代はラグビーに明け暮れた」と語った磯田一郎さんが採用し、住友銀行に入ってからラグビーの日本代表監督も務めている。

宿澤さんが市場営業第二部の責任者だったときに、業務純益の半分くらいを稼いだことがあった。銀行で言うところの業務純益とは、一般企業の営業利益にあたる。その半分を稼ぎ出すとなれば、大黒柱と言っても過言ではない。

 

市場営業本部が担当するのは債券などの投資業務と外国為替などのディーリングだ。投資とは安いときに買って長期保有し、高くなったときに売る。ディーリングは売買を繰り返して収益をあげる。そのどちらにおいても、宿澤さんは指揮者としての勘が鋭かった。ラグビーのポジションはスクラムハーフだったから、試合全体を見通しながらゲームを組み立てる頭脳と瞬時の判断に対応する頭脳、その両方が鍛えられたのかもしれない。同時に、彼は部下指導と育成がうまく、鍛えられた優秀な部下たちがよく働いたことも大きかったと思う。

宿澤さんはいろいろな能力もさることながら、人柄がよく、部下や同僚に対して誠実でやさしい人だった。仲間を自分のほうに包み込んでいくということを自然にできた。ときには息抜きで食事をおごり、打ち解けた場で質問に答えたり、自分の考えを話したりといったコミュニケーションをしっかりと取っていた。だから、部下が喜んでついていったのだと思う。

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/