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多くの人が知らない…コロナ治療薬開発のウラで起きていた「ヤバい経済事件」の深層

証券監視委と警視庁が治療薬会社を捜査

新型コロナウイルス治療薬を開発、メキシコで治験を行なうと発表し、株価を20倍に高騰させた医薬品ベンチャーのテラ(ジャスダック上場)と、支援会社のセネジェニックスジャパン(セネ社)に、証券取引等監視委員会のメスが入った。

証券監視委は、3月3日、会社と役員宅など10数カ所をいっせいに家宅捜索。経営陣など関係者の事情聴取を行なっており、警視庁捜査2課も同時に着手、「コロナ禍を利用した経済事件」として、今後、大きく展開することになりそうだ。

 

それにしても、ワクチン接種が国民的関心事となるなか、新型コロナウイルスに関し、国産ワクチンも国産治療薬も開発できず、米ファイザーなど欧米メーカー頼りの心もとなさを見せつけた日本で、治療薬の話題が「コロナ株価操縦」だというのは、ため息が出るような情けなさである。

テラが、昨年4月27日、「メキシコで臨床試験を行なう」と、ぶち上げた時から怪しさ満載のプロジェクトだった。

翌28日には、鳩山由紀夫元首相とバラク・オバマ元大統領を設立発起人に「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会(コロ研)」が発足、ホームページも立ち上がった。

「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会」のホームページ。現在工事中となっている

テラの平智之社長は、元民主党代議士で鳩山グループに所属しており、創業者の矢崎雄一郎氏は医師で東京大学医科学研究所の研究員も務めていた。またセネ社の藤森徹也社長も医師で厚労省勤務経験を持つ。そういう意味では立派な経歴だが、矢崎氏は不透明な保有株売却を巡って社長退任に追い込まれ、業績悪化が続いて、直近の19年12月期は売上高2億円に対して当期損失が10億円。見るべき創薬もなく、中身のない「ハコ企業」として市場を漂っていた。

それだけに、鳩山・オバマ会見の後、コロ研のホームページで展開される「コロナ新薬計画始動」「新薬サンプル収集プロジェクト始動」「メキシコでの治験開始」と、動画付状況報告は、ハコ企業に特有の株価刺激策だったが、コロナ禍の進行に合わせていただけに投資家の期待を集め、100円台で低迷していた株価は、6月9日、2175円の年初来高値を記録した。

メキシコ病院施設の様子(セネジェニックス社プレスリリースより)
 

ただ、この時既に、疑義を呈する動きはあり、「猫組長」こと菅原潮氏は、自身が持つ週刊『SPA!』(5月19日・26日号)のコラムで、テラ株を利用して資金調達をするセネ社の怪しさを暴露、『フライデー』(6月26日号)は、現地直撃取材をもとにメキシコでの治験に疑問符をつけた。

今となっては、指摘は間違いなかったのだが、セネ社は反発、「反社会的勢力から公正な市場を守る会」を立ち上げて、「株価を引き下げる目的の勢力が(記事の背後に)いる。刑事告発も辞さない」と、ぶち上げた。

「3つの疑念」とその答え

そこで筆者は、何が問題なのかを調べるために、セナ社に取材を依頼。7月10日、対応したのは竹森郁取締役である。竹森氏には、(1)治験が日本ではなくメキシコであること、(2)実用化目前だというスピードがあまりに速いこと、(3)それに連動して株価が急騰しているのは「出来過ぎではないか」という3点を質した。

3点は、証券界の誰もが抱く疑問であり、それが株価操縦疑惑につながっている。竹森氏は、「3つの疑念はもっともだ」としたうえで、「メキシコは新型コロナ肺炎に関する他人の幹細胞を用いた治療(日本は禁止)が認められており、フェーズ3からスタートさせることが出来たのがスピードアップの要因」と、説明。また株価刺激の発表経営になっているのは、「広く我々の研究を伝えることは、今後、事業を大きく展開、協力企業を集めるためにも必要」と、釈明した。

 

しかし、テラとセネ社の治療薬開発は、その後、信じがたいドタバタ騒動を引き起こしており、東証が何度も「改善報告書」を求めるありさまで、市場の落胆を誘って株価は下落する。

テラはIR(投資家向け広報)などで、「メキシコでの治験は良好。イダルゴ州の承認は取れた」と、威勢良く発表しながら、活動資金が枯渇して火の車。その解消のために、10月28日、セネ社宛てに約36億円の第三者割当増資を発表したものの、延期を重ねた末、12月17日、「セネ社から100万円の入金しかなかった」と、恥ずかしげもなくIR。8日後の25日には、メキシコ政府の承認が取れないことを理由に、事業からの撤退を明らかにした。以降、株価は200円台に沈んでいる。

セネ社を取り仕切り、テラを巻き込むメキシコ治療薬プロジェクトを推進したのは竹森氏である。元地方自治体の薬事担当職員を経て退職。医療法人ブローカーと出会って病院経営に手を染め、借金を抱えて行き詰まり、ハコ企業「テラ」を利用した今回の錬金術に乗り出した。

従って、スタート時から資金はなく、前述の菅原氏とのトラブルも、テラ株を利用した「タネ銭稼ぎ」を菅原氏周辺に頼ったのがきっかけだった。以降、テラ株高騰を材料に、投資家のもとを訪れ、資金調達に励む竹森氏の姿が確認されている。

10月に入って、竹森氏が第三者割当増資までの「つなぎ資金」を頼ったのが、投資家の瀧本憲治氏だった。maneoの創業者で日本にソーシャルレンディングというビジネスモデルを普及させた。瀧本氏は友人の会社に、テラ株などを担保に数億円の融資を斡旋してセネ社を支援。顧問となって、内部の状況を目の当たりにする。驚いたのは、「事業よりも(テラの)株価を気にするセネの経営実態」(瀧本氏)だった。

「インサイダー取引、株価操縦、偽計取引など金融商品取引法違反の他、詐欺、印鑑偽造などの刑事的な法令違反を疑うことが出来ました。それだけ経営陣は、追い詰められていたんでしょうね。26億円の資金調達がうまく行けば乗り切れていたかも知れませんが、それも怪しい金融ブローカーと組んだ茶番で、私は手を引きました」(同)

 

36億円の第三者割当増資が26億円となっているのは、セネ社が10億円のテラ私募債を引き受けており、その債務の株式化を含んでいるためだ。26億円は、豊島区の雑居ビルに本社を置く金融ブローカーから調達の予定だったが、この業者にそんな実力はなく、“空手形”に終わった。

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