内閣官房と経済産業省が取りまとめた資料によると、日本ではテレワークの生産性について、オフィス勤務よりも生産性が低いと回答した人が82%に達しており、テレワークの方が生産性が高いという回答はわずか3.9%だった。一方、米国の調査では、41.2%が生産性が上がったと回答し、生産性が下がったという回答は15.3%しかなかった。まったく同一の調査ではないが、似たような設問に対して、ここまで正反対の結果が出たことにネットでは驚きの声が上がっている。
テレワークで生産性が低下した理由の1位は「対面での素早い情報交換ができない」、2位は「パソコン、通信回線などの設備が劣る」、3位は「ルール上、自宅からではできない仕事がある」となっている。注目すべきなのは、インフラやルールの問題ではなく、情報交換という業務プロセスや業務慣行に由来する理由がトップになっていることである。
一般論として、ビジネスのスピード感について、日米欧中で大きな違いが生じているとは考えにくい。日本企業の意思決定は諸外国よりも遅いとすら言われており、迅速な情報交換が求められているのはむしろ諸外国の方だろう。それにもかかわらず、日本企業だけがテレワークに移行すると「素早い情報交換ができない」という事態に直面しているわけだが、これは深刻な問題であると筆者は考えている。
地道な作業や努力を嫌う組織には未来はない
テレワークによって素早い情報交換が妨げられてしまう最大の理由は、日本の組織は基本的に責任の所在が曖昧で、ビジネスプロセス全体が文書化・ルール化されていないからである。
日本の企業社会には、業務をスタートするにあたって、事前に責任の所在を明確にしたり、文書化してビジネスプロセスを定めることを極度に嫌う風潮がある。その結果、見切り発車で業務をスタートし、トラブルが発生してから場当たり的に処理することになる。トラブル処理も全員が顔を合わせて属人的に行うので、ノウハウとして明示的に記録されず、後になって同じトラブルが発生してもシステマティックに対処できない。結果として組織の生産性はなかなか向上しない。