政府広報CMを見て感じた切なさ

3月9日から政府広報として街頭ビジョンやネット、テレビで新たなCMが流れている。

人気インスタグラマーの女性のほか、真っ白い服を着た多くの若者が登場するそのCMでは、それぞれが「大切な人を守る」「夢の実現」「恋人・友人との時間」など自分にとって大切なものを挙げ、最後に「あなたは?」と同世代の若者に言葉を投げかける。その大切なものを守るために、若い世代に対して最大限の予防行動を取ってほしいというメッセージを発信するものだ。

YouTube/内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室

これを企画したのは、内閣官房・コロナ担当の20代の女性。制作スタッフや出演者もすべて20代の若者である。

テレビニュースで、このCM制作の舞台裏を紹介しているのを見て、とても心に刺さった。CMの意図とは全く違う意味で。

正直、とても切なかった。申し訳ないと思った。戦時中の有名な標語である「欲しがりません、勝つまでは」と同じニュアンスのメッセージを、今の私たち大人が、若者に発信せてしまったような気がしたからだ。

昭和17年の大東亜戦争中、大政翼賛会と新聞社が募集した「国民決意の標語」で11歳の少女が作ったとされるこの標語が選ばれて評判となった。実は後に、この標語を考えたのが少女の父だったというオチがつくのだけれど、このCMの後ろにも、標語同様「大人の思惑」が色濃く感じられる。

このCM制作にかかわった若者を批判しているのでは決してない。政府広報なのだから、大人たちの意見が入っていることは容易に想像できるし、彼らも、なんとかしてコロナを収束させたいという強い思いで行動したのはまぎれもない事実だ。尊敬する。新型コロナウイルス感染のリバウンド回避の鍵が「若い世代の行動」であると政治家や報道が、何度も何度も伝える中、彼らは「より意識を高く持って自分たちの行動を律し、がんばっていこう」と同世代に呼び掛けている。

でも、ニュースの中で、内閣官房・コロナ担当の20代の女性がポロリと漏らした一言こそに、若者たちの真の思いが見て取れる。
このCM制作に協力してくださっている方々のほとんどが『もう、しんどい』と思いながら日々生活している状況です

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昔の自分に比べ、今の若者や子どもたちの多くはとっても空気を読むのがうまく、そして賢い。大人の言うことにイチイチ突っかかるのは、絶賛反抗期中のわが息子でも親限定で、学校や習い事の先生、周囲の大人に対しては、びっくりするほど従順で物分かりが良い子を完璧に演じる。そして実際、私の子ども時代より周囲に対して、ずっと優しい気持ちを持っていることに感心する。

だからこそ、空気を読む賢い若者が大人の作った“空気”を読んで、このCMができたのではないかと感じてしまうのだ。彼らの「前向きにがんばろう」とする姿勢は嘘ではない。でも私は、若者たちが心の中で抱えている「もう、しんどい」という本当の思いのほうこそ、大人がもっと真剣に受け止めなければならないと切実に感じる

学校も塾も感染対策は徹底している。多くの子どもたちは新しい生活様式に馴染もうと懸命だ。写真は進学塾の風景。photo/Getty Images